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~部室にて~ キョン「Zzzz…」 ハルヒ「……」 長門「……」ペラ ハルヒ「ねぇ有希」 長門「なに?」 ハルヒ「あたしたち友達よね?」 長門「そう認識している」 ハルヒ「それじゃあさ、なんか悩み事とかない?」 長門「何故?」 ハルヒ「何故って、特に理由は無いけど」 長門「そう」 ハルヒ「ほら、あたしたちってあんまりプライベートな話しないじゃない?」 長門「?」 ハルヒ「あたしこんな性格だからあんまり同性の友達いないの」 長門「朝比奈みくるがいる」 ハルヒ「みくるちゃんってなんだかんだで年上だし、有希が一番一緒にいる同い年の友達なのよ」 長門「そう」 ハルヒ「だから、その、もっと仲良くなりたいなぁ、って」 長門「つまり『普通』の交友関係を望むと?」 ハルヒ「うっ、団長としてあんまり『普通』を強調されると耳が痛いわね」 長門「他意はない」 ハルヒ「わかってるわよ。そうね、普通に友達と付き合いたいと思ってる」 長門「……」グゥ~ ハルヒ「一緒に買い物に行ったり、恋愛の話したり」 長門(お腹がへった) ハルヒ「そうだ!有希って好きな人いたりするの?」 長門「好きな人?」 ハルヒ「そう!好きな人!」 長門「それは異性という意味?」 ハルヒ「当たり前じゃない」 長門「自分から答えないとフェアではない」 ハルヒ「え?」 長門「こういった質問の場合、自分から答えずに相手にのみ回答を求めるのはフェアではない、と本に書いてあった」 ハルヒ「え?」 長門「先に言うべき」 ハルヒ「あたしが?」カァァ 長門「……」コク ハルヒ「あ、あ、あ、あたしは、その」チラ キョン「Zzzz…」 長門「?」 ハルヒ「あたしは、今はいないわ!……多分」 長門「そう、わたしは彼が気になる」 ハルヒ「彼?」 長門「そう」チラ キョン「Zzzz…」 ハルヒ「え?あれ?」 長門「そう」 ハルヒ「ほんとに?」 長門「友達に嘘はつかない」 ハルヒ「うっ」 長門「なにか問題が?」 ハルヒ「あ、あれはダメよ!止めときなさい」 長門「何故?」 ハルヒ「だって、その、見た目だってよくないし、冴えないし、馬鹿だし、有希には釣り合わないわ」 長門「それを決めるのはわたし」 ハルヒ「そうだけど……」 長門「……」 ハルヒ「でも、あいつは……その」 長門「嘘」 ハルヒ「え?」 長門「さっきまでの発言は嘘だと言った」 ハルヒ「だってさっき友達に嘘言わないって」 長門「それも含めて嘘」 ハルヒ「ほんとに?」 長門「今度は本当」 ハルヒ「ほんとにほんと?」 長門「くどい。友達の思い人を取ったりしない」 ハルヒ「だ、誰があいつのことなんか」カァァ 長門「なら貰う」 ハルヒ「それはダメ!」 長門「……」 ハルヒ「……」 長門「……」 ハルヒ「な、なによぉ」 長門「別に。……ただ」 ハルヒ「ただ?」 長門「人をからかうのはなかなか楽しい」 ハルヒ「なっ!」 長門「友達なら冗談の一つや二つは言うもの」 ハルヒ「そうだけど」 長門「あなたは私に普通の友達を求めた」 ハルヒ「うん」 長門「だからそれに答えられようにしてみた。何か違った?」 ハルヒ「……あたしも普通の友達ってよく分からないけど、多分あってると思う」 長門「そう」 ハルヒ「ここじゃ言えないけど、今度有希にはあたしの好きな人教えるはね」 長門「わかった」 ハルヒ「それじゃあこの話はこれでお終いね」 長門「……」コク ハルヒ「有希はあたしに何かないの?」 長門「なにかとは?」 ハルヒ「質問よ」 長門「質問……。趣味は?」 ハルヒ「不思議なこt」 長門「それはもういい」 ハルヒ「えぇ~。他には、料理とかかな?こう見えて結構お母さんと一緒に作ったりしてるから上手なのよ」 長門(案外普通。しかし) ハルヒ「似合わないかな?」 長門「興味がある」 ハルヒ「そ、そう。有希は一人暮らしなのよね。自分で作ったりしてるんでしょ?」 長門「……」フルフル ハルヒ「もしかしてコンビニ中心?」 長門「……」コク ハルヒ「有希らしいと言えばそれまでだけど、それじゃ全然ダメじゃない」 長門「?」 ハルヒ「いい。女の子は料理くらい出来ないと後々大変よ?」 長門「今日のあなたは少し変」 ハルヒ「そ、そうかしら」 長門「いつもなら『女の子らしい』などということを一々強調しない。それは朝比奈みくるの役割」 ハルヒ「そうかもね。でもなんだか有希とはなんていうの?腹を割って話したいというか、そんな感じなのよ」 長門「それは私が友達だから?」 ハルヒ「そう。それに有希って口堅そうだし」 長門「望むなら他言はしない」 ハルヒ「頼むわよ。SOS団の団長がこんなだったら他のみんなに示しがつかないわ」 長門「……」コク ハルヒ「でも、有希さっき嘘ついたしなぁ~」 長門「しつこい。それよりもさっきの話」 ハルヒ「さっき?あぁ料理の話ね」 長門「なにが得意?」 ハルヒ「ありきたりだけどカレーね」 長門「!!!」 ハルヒ「市販のルーを何種類か混ぜると美味しいのよ。あたしの場合、味の決め手はコンビーフね」 長門「……」ゴク ハルヒ「後は、大量の玉葱と人参にカボチャ。お肉は豚バラと手羽先」 長門「……」グゥ~ ハルヒ「後は香り付けに月桂樹の葉も必要ね。それとた~か~の~つ~め~、って知ってる?」 長門「知らない。興味がない」ググゥ~ ハルヒ「な、なんか今日の有希はアグレッシブね」 長門「あなたが望んだ結果こうなった」 ハルヒ「まぁ、悪い気はしないわ」 長門「そう」グググゥ~ ハルヒ「お腹空いてるの?」 長門「あなたの話を聞いたら俄然空いてきた。カレーはとても好き」 ハルヒ「そっか……。ねぇ、今日あたしん家両親が出かけてて夜一人なのよ」 長門「それで?」 ハルヒ「せっかくの機会だし有希の家に泊まりに行っていい?」 長門「さっきのレシピ通りにカレーを作るなら許可する」 ハルヒ「じゃあ決まりね♪あたし家に着替えとか取りに行ってくるわね。で、ついでに買い物して行くわ」ガタ 長門「私もついて行く」ガタ ハルヒ「今日は夜通し遊ぶわよ!」 長門「構わない」 バタンッ キョン「ふぁぁ~……、あれ、誰もいない」 Fin ~涼宮邸前~ ハルヒ「おまたせ有希」 長門「大丈夫」 ハルヒ「じゃあ行きましょ」 長門「……」コク ハルヒ「有希の家の近くにスーパーってある?」 長門「ある。問題ない」 ハルヒ「ならいいわ」 長門「そう」 ハルヒ「有希は料理作れるの?」 長門「カップ麺ならお手の物」キラ ハルヒ「……それは料理じゃないわよ」 長門「?」 ハルヒ「ま、まさか家に調理器具ないとかいわないでしょうね」 長門「……。大丈夫用意した」 ハルヒ「用意した?」 長門「問題ない」 ハルヒ「よく分かんないけど、あるんならいいわ」 長門「……」コク ハルヒ「~♪」 長門「……」ジー ハルヒ「ん?どしたの有希?」 長門「別に」 ハルヒ「?変な有希♪」 長門(精神状態が非常に良好) ハルヒ「有希の部屋って本いっぱいありそうよね」 長門「家にはあまりない」 ハルヒ「そうなの?」 長門「そう」 ハルヒ「ちゃんと片付いてる?」 長門「……」コク ハルヒ「そうよね。有希ってなんか几帳面っぽいし」 長門「……」 ハルヒ「先に家行っていい?荷物持ったままだと買い物しずらいし」 長門「構わない」 ハルヒ「♪」トテトテ 長門「……」トテトテ ~長門宅にて~ ハルヒ「お邪魔しまーす」 長門「どうぞ」 ハルヒ「ほんとに誰もいないのね」 長門「私だけ」 ハルヒ「今は二人よ」 長門「そう」 ハルヒ「そうよ」 長門「こっちがリビング」 ハルヒ「へー、って何にもないじゃない!?」 長門「机がある」 ハルヒ「見りゃ分かるわよ。こんなシンプルな部屋なんて初め てみたわ」 長門「そう」 ハルヒ「普通年頃の女の子なら小物の一つでも……」 長門「普通?あなたは普通は求めいていないのでは?」 ハルヒ「もう!いちいち突っ込まないでよ。あくまで一般論よ 、一般論」 長門「……」ジー ハルヒ「な、なによ」 長門「別に」 ハルヒ「気になるじゃない」 長門「別にと言った」 ハルヒ「わかったわよ」 ハルヒ「それじゃあ買い物行きましょう」 長門「行く」 ハルヒ「それじゃあ案内してね」 長門「任せて」 ~スーパーにて~ ハルヒ「まずは野菜ね」 長門「……」トテトテ ハルヒ「まさか、お米何も無いとは思わなかったわ」 長門(お菓子もある) ハルヒ「とりあえず、カボチャに玉葱、にんじんっと」 長門「……」キョロキョロ ハルヒ「次はお肉ね」 長門「……」トテトテ ハルヒ「やった、豚バラ半額よ。得したわね」 長門「……」コク ハルヒ「手羽も見つけたし、後は香辛料ね」 長門「……」トテトテ ハルヒ「あった」 長門(することが無い) ハルヒ「それじゃあレジ行ってくるから、お金は後で割りカンね?」 長門「わかった」 注:調理シーン及び食事シーンは割愛で。 ~再び長門宅~ 長門「ごちそうさま」 ハルヒ「おそまつさまでした」 長門「美味しかった」 ハルヒ「カレー好きの舌を満足させれてよかったわ」 長門「牛、豚、鳥が全部入ったカレーは初めて」 ハルヒ「そうなの?家であれが普通よ。実際安いお肉だけで済んでるし」 長門「今後の参考にする」 ハルヒ「どうぞ。それにしてもよく食べるわね。見てるだけでお腹痛くなりそう」 長門「いつもこのくらい」 ハルヒ「この小さい体にどんだけ入るのよ」ポンポン 長門「お腹を叩くのはやめて」 ハルヒ「あっ、ごめん。でもあれね、次回の不思議探索は有希の胃袋の限界調査ね」 長門「構わない」キラッ ハルヒ「いずれはSOS団を代表して、大食い女王決定戦に出てもらおうかしら」 長門「一向に構わない」キラッ ハルヒ「あはは、流石に冗談よ」 長門「……そう」 ハルヒ「……有希はさ」 長門「?」 ハルヒ「一人暮らしで寂しくないの?」 長門「特に」 ハルヒ「でも学校から帰ったらここには誰もいないじゃない?」 長門「……」コク ハルヒ「あたしなら寂しいなぁ、って」 長門「やはり今日のあなたは変」 ハルヒ「またそれ?なかなか弱みを見せないあたしが見せてるんだから、少しは相槌しなさいよ」 長門「弱みを見せるということは私を信用している?」 ハルヒ「家族の次に」 長門「そう」 ハルヒ「そうよ」 長門「……私は、あまり寂しくない」 ハルヒ「有希は強いのね」 長門「なぜなら」 ハルヒ「なぜなら?」 長門「普段なら今頃、彼とメールのやり取りをしている」 ハルヒ「え?」 長門「寝るまで」 ハルヒ「か、彼って?」 長門「そう、彼」 ハルヒ「そ、そんな話聞いてないはよ!」ガタ 長門「それはそう。言ってない」 ハルヒ「な、な、な、だって有希好きじゃないって、い、言ったじゃない」 長門「そろそろメールを送る」カチャ ハルヒ「え!?」 長門「……」メルメル ハルヒ「……」ドキドキ 長門「完了」 ハルヒ「……なんて送ったの?」 長門「……」 ハルヒ「ちょっと、なんかいいなs」ピリリリ ハルヒ「こんな時誰からよ?」 FROM ♪ユッキー♪ 本文 あなたは単純すぎ(笑) だから面白い(笑) さっきのはもちろん真っ赤な嘘(笑) 長門「ユニーク」 ハルヒ「……」 長門「……ユニーク」 ハルヒ「有希」 長門「……ユ、少し調子に乗った」 ハルヒ「……そう、有希でもそんなことがあるのね」 長門「ごめんなさい」 ハルヒ「まぁいいわ。でも後で覚えてなさいよ?」 長門「わかった」 ハルヒ「ったく、もぉー」 長門「牛?」 ハルヒ「え?」 長門「なんでもない」 ハルヒ「そう」 長門「そう」 ハルヒ「……なんか不思議よね」 長門「?」 ハルヒ「SOS団で、とかじゃなくて有希と二人だけじゃない?」 長門「SOS団があるから今がある」 ハルヒ「そうなんだけど……」 長門「?」 ハルヒ「あのね、一つ前からどうしても聞きたいことがあったの」 長門「なに」 ハルヒ「あたしが文芸部の部室をなかば強引に頂いたじゃない」 長門「……」コク ハルヒ「う、肯定された。で、それって迷惑じゃなかった?」 長門「問題ない」 ハルヒ「ほんと?」 長門「本当」 ハルヒ「今更だけど、迷惑だったら謝んなきゃ、ってずっと思ってたのよ」 長門「迷惑ではない。むしろ良かった」 ハルヒ「え?」 長門「あれは必然。あなたが来て、彼が来て、朝比奈みくると古泉一樹が来た。そのおかげで今に至る」 ハルヒ「有希……」グス 長門「だからあなたは謝罪ではなく、謝礼を言うべき」 ハルヒ「ん?」グス 長門「私があの部室を保有していたおかげでSOS団がある」 ハルヒ「……なんか有希って性格ちょっと悪くない?」 長門「あなたが望んだ」 ハルヒ「あたしが望んだのは友達よ!」 長門「友達なら関係は同等。あなたに合わせると自然とこうなる」 ハルヒ「また聞き捨てならないわね」 長門「気のせい」 ハルヒ「……今回も貸しにしとくわ」 長門「そう」 ハルヒ「ふぅー、ねぇお風呂入っていい?」 長門「構わない。バスタオルは脱衣所にある」 ハルヒ「ありがとう。……有希一緒に入らない?」 長門「一緒に?」 ハルヒ「そう、たまには裸の付き合いも悪くないでしょ」 長門「それは一般に男性の台詞」 ハルヒ「細かいことは気にしないの、ほら行くわよ♪」ガシ 長門「分かったから引きずらないで欲しい」ズルズル ~脱衣所にて~ ハルヒ「~♪」スル 長門「……」 ハルヒ「~♪」スルスル 長門「……」 ハルヒ「あれ?有希脱がないの?」 長門「すぐ入る。先に行って」 ハルヒ「?わかったわ」 長門「……」 長門(これは今日の仕返し?) 浴室にて~ 長門「遅くなった」 ハルヒ「先にお風呂頂いてるわよ」 長門「構わない」ジャー ハルヒ「はぁ~、暖まるわ~」 長門「そう」ゴシゴシ ハルヒ「……」ジー 長門「何?」ゴシゴシ ハルヒ「え?いや、有希って肌綺麗だなぁって、なんか使ってるの?」 長門「何も」ゴシゴシ ハルヒ「いいなぁ、うらやましい」 長門「私はあなたがうらやましい」ジー ハルヒ「ん?あぁ、これ?そうね有希にないもんね」ニヤニヤ 長門「私にもある」ジャー ハルヒ「え?どこ?」 長門「……涼宮ハルヒを敵性と判断」キュ ハルヒ「ちょ、冷たいわよ、有希!冷水は卑怯よ!」 長門「聞こえない」 ハルヒ「こんなけエコーかかって聞こえないわけないでしょ!もう、冷たいってば」 長門「潜ればいい」 ハルヒ「!その手が」ザブ 長門(今のうち) ハルヒ「ぷはっ、息続かない」ガン ハルヒ「って、イタ!」 長門「注意力が足りない」 ハルヒ「潜ってる時にふた閉めないでよ!驚いたじゃない」 長門「それが目的。今だけはあなたは私の手のなかで踊る」 ハルヒ「なによそれ」 長門「なんでもない」 ハルヒ「それより入んないの?風邪ひくわよ」 長門「入る。詰めて」 ハルヒ「ん」 長門「あたたか、くない……ぬるい」 ハルヒ「ふん、自業自得ね」 長門「お湯を足す」 ハルヒ「賢明ね。これじゃ誰かさんのせいで風邪引いちゃうわよ」 長門「……」 ハルヒ「だんだん暖かくなってきたわね」 長門「……」コク ハルヒ「……ねぇ有希。後ろ向いてこっちに背中あずけて」 長門「何故?」 ハルヒ「なんか有希ってちっちゃいから妹みたいに見えて」 長門「妹?」 ハルヒ「ほら、キョンの妹ちゃんいるじゃない?あの娘見てから、あたしにも妹いたら良かったのになぁ、とか考えちゃうのよ」 長門(あまり強く考えられると現実になりかねない) ハルヒ「だから有希、お姉ちゃんとこおいで。なんてね」 長門「わかった」クル ハルヒ「いやに素直じゃない♪」ギュ 長門「……」ムニ ハルヒ「ふぅ」ムニ 長門「……」イラ ハルヒ「暖かい」ムニ 長門「背中に当たるものが非常に不愉快」ザバァ ハルヒ「もう出るの?」 長門「出る」 ハルヒ「じゃあ、あたしも上がr」 ピシャッ!! ハルヒ「ちょっとなに閉めてんのよ!あけなさい!」 ~寝室にて~ ハルヒ「もう、せっかく夜通しで遊びたいとこだけど明日も学校なのよね」 長門「仕方がない」 ハルヒ「わかってるわよ」 長門「布団はここでいい?」 ハルヒ「どうせなら隣通しにしましょうよ。それでどっちかが寝るまでずっと話してましょ♪」 長門「構わない」 ハルヒ「決まり♪」 長門「歯を磨いてくる」 ハルヒ「あらまだだったの?あたしなんかとっくに」イー 長門「そう」トテトテ ハルヒ「ったく、つれないわねぇ」 ハルヒ「先に横になってよ」 ハルヒ「……」 ハルヒ「……」バタバタ ハルヒ(あたし今友達とお泊りしてるんだよね?なんか楽しい♪案外普通も悪くないじゃない) 長門「戻った。……ほこりが出るからあまり騒がないでほしい」 ハルヒ「あっ、ごめん」 長門「別にいい」ストン ハルヒ「それじゃあ寝ましょ」 長門「明かりを落とす」カチ ハルヒ「……」 長門「……」 ハルヒ「……」 長門「……」 ハルヒ「なんか喋りなさいよ!このままじゃ寝ちゃうじゃない」 長門「……あいうえお」 ハルヒ「……今、はっきりしたわ。どうやら今日の有希はあたしにケンカ売ってるみたいね?」 長門「……」フルフル ハルヒ「いいえ、許さないわ。ちょっとそっちに詰めなさい」モゾモゾ 長門「何を?」 ハルヒ「罰として、今晩は有希を羽交い絞めにして寝る」 ハルヒ「観念しなさい」 長門「……」コク ハルヒ「……ねぇ」 長門「何?」 ハルヒ「これから先も皆でやってけるかなぁ」 長門「何を?」 ハルヒ「SOS団」 長門「今は何の問題もない」 ハルヒ「そうじゃないの。あたしにとってSOS団ってほんと特別なのよ。こんなに皆でワイワイやって楽しかったことなんて今までなかった」 長門「……」 ハルヒ「有希に、みくるちゃんに古泉君、鶴屋さんもそうね、ついでにキョン」 長門「……」 ハルヒ「皆とだから上手くやってけてる気がする。大人になったら、流石にあたしも少しは丸くなってると思う」 長門「丸く?」プニプニ ハルヒ「有希」 長門「……ジョーク」 ハルヒ「はぁぁ。だからね、大人になっても皆で楽しくやってけるかなぁって」 長門「……」 ハルヒ「今が楽しすぎるから不安になってくのよ」 長門「大丈夫」 ハルヒ「何がよ」 長門「あなたが望めば願いはきっと叶う。もちろん私も望んでる」 ハルヒ「……有希」 長門「大丈夫」 ハルヒ「そうだよね」 長門「そう」 ハルヒ「ありがとう。それとね……」 長門「?」 ハルヒ「昼間話してた、その、あたしの好きな人なんだけど……」 長門「別に言わなくていい」 ハルヒ「え?」 長門「気付いてないと思ってるのはあなただけ」 ハルヒ「……え?」 長門「朝比奈みくるも古泉一樹も知っている」 ハルヒ「……」カァァ 長門(抱きしめる力が強くなった)ギュウゥゥ ハルヒ「……あいつも知ってるの?」カァァ 長門「残念ながら彼の鈍さは尋常でない」 ハルヒ「そ、そっか」 長門「そう」 ハルヒ「も、もう寝ましょ」 長門「……」コク ハルヒ「……あたしたちこれからもずっと友達よね」 長門「友達」 ハルヒ「……親友と思っていい?」ボソ 長門「何?」 ハルヒ「な、なんでもないわ!おやすみ!」 長門「?おやすみ」 ~通学路にて~ ハルヒ「おはよう、古泉君」 古泉「おはようございます。おや今日は長門さんと一緒ですか?めずらしいですね」 ハルヒ「そうなのよ。有希が寂しいからどうしてもって言われて、昨日はお泊りだったのよ」 長門「明らかに事実と違う」 ハルヒ「そうだっけ?」 長門「そう」 ハルヒ「まぁ、どっちでもいいじゃない」 長門「……昨夜の恥ずかしい寝言を話す」 古泉「おやおや、それは興味がありますね」 ハルヒ「え?何?寝言なんてあたし知らないわよ!?」 長門「それはそう。寝言だから」 古泉「それで涼宮さんはいったいなんと?」 長門「まず、ky」 ハルヒ「ワーー、ワーー、ストップよ有希!あたしが悪かったから」 長門「反省してる?」 ハルヒ「してるしてる」 長門「そう、ならいい」 鶴屋「おや、皆朝から元気いいねぇ」 みくる「みなさん、おはようございますぅ」 ハルヒ「鶴屋さんにみくるちゃん!おはよう」 古泉「おはようございます」 鶴屋「いったい何騒いでたんだい?」 長門「涼宮ハルヒの弱みを握った」 鶴屋「なんだって!それはでかしたよ!」 ハルヒ「有希、喋ったら死刑よ!」 長門「なら、死刑になる前に今全て暴露する」 ハルヒ「ちょ。ウソ!ウソよ!有希!落ち着いて」 みくる「みんな朝から元気ですねぇ」 古泉「えぇ、ほんとに。もし可能なら、こんな日がずっと続けばいいですね」 みくる「そうですねぇ」 Fin?
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涼宮ハルヒの遡及Ⅶ 「でっかぁぁぁ!」 「す、涼宮さんなんたってこんなぁ……!」 俺の驚嘆の声と朝比奈さんの怯えきって震えた声を聞いて、 「うんうん。やっぱ、ボスたるもの、これだけの迫力がなくっちゃ!」 などと、ハルヒは腕を組み、勝ち誇った笑顔でうんうん頷いている。 そう、俺たちの目の前に現れたのは、マジで山かと錯覚してしまうくらいの大きさなんだが、実質的にはさっきの怪獣より倍は大きい程度で、漆黒の鱗に紅蓮に輝く瞳、その口からぬめり輝く牙はゆうに俺たちの身長以上は楽にある。んでもって、やっぱり漆黒の翼を纏い、しかしその体重が飛ぶのをどこか邪魔しているのか、がっつり大地に足を下しているんだ。これを長門、古泉、朝比奈さんが協力して倒すストーリーなのか? いったいどうやって倒すつもりだったんだろう? んで、奴が歩みを進める度に震度3以上で大地を震わすのである。 ……ボス、ねぇ…… 「で、あれがラスボス?」 問いかけてきたのは振り向くことはできないようだがアクリルさんだ。 「アレがラスボスなら、アレをやっつけちゃえばこの世界から脱出よ。だって、ラスボスを倒せば『ストーリー』が終わるから。その先がない以上、世界は崩壊し、あたしたちは元の世界に戻ることができる」 なるほど。それは確かに納得できる理由だ。 まあもっとも、ハルヒのことだから、 「あ、違います。さっきの大群のボスだけど、こいつがこの世界のラスボスって訳じゃないんです」 だろうな。こんなあっさりラスボスが登場するとは思えん。 「あっそ。んじゃまあ、とりあえずあたしたちの身の安全のためにこいつを葬るとしましょうか!」 ハルヒの答えを聞いて、アクリルさんが宙を駆けるように舞い上がる! それを追って長門と古泉も飛び上がった! 「ブレイズトルネード!」 先手はアクリルさん! 舞い上がると同時に、猛スピードで漆黒の怪獣の目線に到達した瞬間、灼熱の炎の竜巻を奴にぶつける! 当然、奴は恐れ慄き、むやみにそのぶっとい腕を振り回すが当然、そこにアクリルさんの姿はない! どうやらあれは目くらましだったようだ。さらに上昇して行くもんな! だが、いったい何のために? そんなアクリルさんの上昇を尻目に、古泉と長門も攻撃を開始した! 古泉は勿論、例の赤いエネルギー球をぶつけ、長門はスターリングインフェルノを振るい、主に爆裂魔法をしかけているようだ。 ただ如何せん、あの巨体だ。そんなにダメージはなさそうである。 派手な爆撃音が響く割には怪物の動きはまったく鈍っていない。 目くらましから目が慣れてきたのか、だんだんと攻撃が正確になっていく。 奴の繰り出すかぎ爪攻撃が古泉や長門をかすってやがるからな。 しかし、古泉と長門の動きもそんなにのんびりしちゃいない。 かする以上のダメージを受けることなく、散発的な攻撃を継続している。 ――!! と言うことは牽制攻撃ってことか!? なら本命は――! 俺の予想を裏付けるが如く、はるか上空から、しかし、それでもここまで声が届いたんだ! 「グラビデジョンプレッシャー!」 と、同時に怪物の動きが、そうだな、同じくらいの大きさの錘を背負わせたんじゃないかというくらい、俺にもはっきり分かる! 奴の表情が苦痛に歪み、腰が前折れになって、足が大地にめり込みやがったからな! これは……重力を増大させる魔法か!? つまり奴の動きを封じるために……! 「セカンドレイド!」「……」 奴の動きが止まった瞬間、古泉と長門がさっきの攻撃以上の力を込めていることが一目瞭然で理解できるエネルギー球を、奴めがけて、それぞれ右腕と左腕に投げつけて、当然、その両腕は破壊された! 奴の空気を震わせる絶叫が響く! 「これでもうかぎ爪の攻撃はできなくなりましたね」 などと言う古泉の勝ち誇った声が聞こえてきて、 「えっ!?」 しかし、その声を捉えた怪物は紅蓮の瞳で古泉を睨みつけたと思った瞬間! 「くっ!?」 古泉には両手でブロックする時間しか残されていなかった。 しかし、奴の巨体からすればブロックの上からでも楽に古泉を吹き飛ばせることができる! 猛スピードで地面に墜落する古泉! 「古泉くん!」 ハルヒの悲痛の叫びが届く! そう……確かに吹き飛ばしたはずの右腕が瞬時に復活しやがったんだ…… どういうことだ……? 「超回復」 って、長門!? いつの間に!? 「あの怪物は肉体の一部が破損されたとき、瞬時にその部位を回復させる特殊能力がある模様」 なんだって!? 俺は愕然とするしかできなかった。 が、 「さて、それはどうかしら?」 長門の意見を否定する人物が現れた。いや否定と言うより疑問視だな。 もちろんそれは俺と長門の前に降り立ったアクリルさんだ。 「で、もう大丈夫よね?」 「はい、ありがとうございます」 その隣にはさっき、かなりの勢いで地面に激突した古泉が、ブレザーの袖と背中が派手に破れさせながら、全身は誇りまみれになっているんだけど、ほとんど無傷の状態で佇んでいるのである。 って、いつの間に!? 「僕が地面に叩きつけられたとほぼ同時に、さくらさんが来てくれて回復させてくれたんですよ。おかげで助かりました。テレポテーションという能力は便利なものですね」 「よかった……」 にこやかな苦笑を浮かべる古泉に俺とハルヒは安堵の表情を浮かべるが、 「あなたに問う。わたしの見解に対する疑問は?」 なんとなく憮然と問いかけてきたような気がするぞ長門。注文が付いたことがそんなに気に入らなかったのか? で、どうやらアクリルさんも長門の心境に気づいたのだろうか、 「あ、誤解しないで。もしかしたらあたしの思う『超回復』とあなたの考える『超回復』で意味が違うかもしれないってだけだから」 と、なんとも気を使って語りかけてくるのである。 「あ……!」 おや? 長門は悟ったようではあるのだが? 「んじゃまあ、とりあえず試してみましょうか!」 そんな長門の声は耳に入らなかったのか、アクリルさんは巨人竜へと向きなおる。 少し足を開き気味に立ち、両手を腰のあたりに添え、と同時にマントと頭髪をなびかせながら、俺には理解不能の呟きが聞こえてくる。 言うまでもないと思うが呪文を唱えているってことだぞ。 んで、アクリルさんを中心に気流が渦巻き始めているんだ。しかもどんどん勢いを増してゆく! 「ウィングソードストーム!」 アクリルさんが術を開放すると同時に周囲を渦巻いていた気流が――そうだ、あたかも気流が刃の嵐となって巨人竜へと放たれたんだ! どこかで聞いたような変化を示した魔法ではあるが気にしないでくれ! どうやらアクリルさんが使う魔法にはとある星座をモチーフにしたバトルマンガのフィルタがかかっているようなんでな! そしてその刃が再び巨人竜の右手を砕く! 再び響く巨人竜の絶叫! しかし! 「あ、復活した」 なんてどこか呑気な声を発したのはハルヒだ。 「……ここは一度、戦略的撤退よ!」 「はい」 「了解」 は? 巨人竜の右腕が復活したのを見て取れて、アクリルさんがいきなり撤退宣言。それに古泉と長門があっさり了承。 って、ちょっと待て! アレをほったらかしにするのはいいのか? 「そんな悠長なことは言っていられない、ということですよ」 俺の問いには答えず、しかし古泉が俺の手を取り、赤球をスパークさせる。 ふと隣を見てみれば、アクリルさんがハルヒを抱えて、長門が朝比奈さんを背負って同じように猛スピードで飛行していた。 「で、どういうことなんだ?」 「見ての通りです。あの巨竜は長門さんのおっしゃられた通りで破損された部位を即座に修復させる治癒能力を持っています。つまり、どれだけダメージを与えようが、並みの攻撃では太刀打ちできません。ですから作戦を練るために一度、奴と距離を取るのです。もっとも幸いなことに回復された個所が強化されることは無いようです。長門さんが言った『超回復』は回復スピードを指し、さくらさんの言った『超回復』は通常僕たちでも負傷した時に、その箇所がより強固となって回復する『超回復』を指すようです。これが『超回復』に対する二人の見解の違いと言うことですね」 「……どっちにしろ、俺には回復スピード以上の破壊エネルギーをぶつける以外の対抗策がない、という風にしか聞こえんのだが?」 「そうとも言えるかもしれませんね」 って、笑ってる場合か! あんなデカブツ相手にどうやったら回復する前に倒せるような力が存在するんだよ!? 「ですから、それを考えるということです。幸い、あの巨竜の動きは僕、長門さん、さくらさんと比較するなら相当鈍いようですし、撤退して距離を取ればある程度の時間を稼ぐのは可能ですから」 ああ、そうかい。 などと嘆息する俺なのだが、一つ、失念していた感は否めない。 なぜなら、奴の手下である五十匹ほどの空飛ぶ怪獣たちは爪と牙と体重以外に口から発射される武器を持っていたから。 なら、当然、その親玉であるあの巨人竜も持っている訳で、 「って、ハルヒ! さくらさん!?」 そう、二人の背後から猛スピードで迫る漆黒の渦巻きが二人を追っているんだ! 古泉や長門と比較するならやはり、アクリルさんの飛行速度の方がはるかに速いので、今では俺たちの先頭を飛行しているしているのである。 だから俺はその漆黒の渦巻きを横目に捉えてしまったんだ! どうやらあの巨人竜は誰が一番脅威なのかを本能的に分かっているらしい! ただ、それが強大無比な戦闘力を誇るアクリルさんなのか、それとも、この世界の創造主であるハルヒなのかまでは分からんのだが、とにかく二人が固まっているわけだから、奴にとっても攻撃しやすいのだろう。 さすがのアクリルさんの飛行速度も背後から迫りくる漆黒の渦巻きには勝てないらしい。 どんどん差が縮まっていくもんな! 「くっ!」 「さくらさん!」 肩越しに振り返るアクリルさんの表情には焦燥感が色濃く表れている! しかももう避けられるほどの範囲にない! 「ハルヒぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」 俺の絶叫が響いたのは、その漆黒のうねりが二人を飲み込んだところを目撃してしまった後のことだった。 「ハルヒぃ! ハルヒっ! ハルヒぃぃぃ!」 俺は錯乱したように叫ぶしかできない。 なぜなら漆黒の火柱が過ぎ去ったあと、そこには何もなかったから。 今は俺と古泉のはるか背後になってしまっているのだが、飛行中、横目に確実に誰もいない現実を捉えてしまったんだ。 そう――呑みこまれるまでには確実にいたハルヒの姿がそこに無かったから―― 「ちょっと! 落ち着くてください!」 「馬鹿野郎! これが落ち着いていられるか! ハルヒが! ハルヒが! と言うか戻れ! もしかしたら墜ちただけかもしれないじゃないか!」 「冷静に状況分析をしてください! 今、先ほどの場所に戻ることはできません! 僕たちがやられてしまいます!」 「古泉てめえ! ハルヒがやられたってのに何、落ち着き払ってやがる! お前はハルヒが心配じゃないのか!」 「ですから……!」 「一応、あたしも巻き込まれたと思うんだけど、あたしの心配はなし?」 え? 俺の動きを止めたのは、俺たちの背後から聞こえてきた妙にからかっている感のある声だった。 恐る恐る振り返る。 そこには、 「あの……涼宮さんを心配されるお気持ちは判りますけど、僕が落ち着いていた意味をもう少し考えてほしかったのですが……」 と、呟く苦笑を浮かべて呟く古泉のさらにその背後に、 「ば、馬鹿キョン……あんた、何、取り乱してるのよ……こっちが恥ずかしくなるじゃない……」 「それだけハルヒさんが大切ってことじゃない?」 顔を真っ赤にしているハルヒと、ハルヒを抱えてなんとも宥める笑顔を浮かべるアクリルさんが居るのである。 「いったい何が……」 「説明は後よ。とにかくいったんあいつから離れる」 「了解しました」 俺の茫然とした呟きを今は聞き流して、アクリルさんと古泉が飛行速度を加速させる! 「あのエネルギー波はちょっと厄介ね。あたしの結界以上のパワーがあったわ。だから避けるしかなかったんだけど。でもまあ、これだけ離せば射程距離外にはあるみたい」 「そのようです。追撃の一撃が来ません」 アクリルさんと古泉が肩越しに振り返る。 さっきはとてつもなく大きく見えた巨人竜が、今は遠い所為もあり、せいぜい近くにある山と同化しているようにしか見えん。 つっても色が漆黒で形がいびつだから区別はつくがな。 「では降下して森の中に身を隠し、対策を練ることを推奨する」 って、長門いつの間に!? などと俺が口に出す前に、三人は眼下の森へと降下を始め、どうやら俺の頭も冷えたようだ。 しかしだな。同時に暗澹たる気持ちが支配する。 ――あの怪物をどうやって退治する?―― 誰も口にはしないがおそらくは、みんな同じことを考えただろうぜ。 涼宮ハルヒの遡及Ⅷ
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2ハルヒ4 18:00 ピ ピ ピ ピ ハルヒ「じゃ明日9時に駅前集合だから。遅刻は死刑よ!じゃあね」 いつも通りそう言って部室を後にする。 18 30 ピ ピ ピ ピ 家に着く。阪中さんからメールだわ。 『散歩がてら遊びに来たのね。近くの公園にいるのね』 18 37ピ ピ ピ ピ 公園に行くと阪中さんとJ・Jが待ってた。 適当に話したり適当にJ・Jをかまって帰った。 19 04ピ ピ ピ ピ お母さんが帰ってた。ご飯を作っている。 できるまでに宿題する。 19 27 ピ ピ ピ ピ 遅いわ!お腹がすいて集中できない。 常勝巨人軍が6-0で負けてるのも気に食わないわ 19 43 ピ ピ ピ ピ 呼ばれたからご飯を食べに下に降りる 今日はエビフライね。遅かったことは許してあげましょ。 20 28 ピ ピ ピ ピ 親父があたしを呼んだ。巨人が点を入れたみたい。 でも、阪神には勝たなきゃ許さないわ。 20 43 ピ ピ ピ ピ 明日どこへ行こうか考える。 組み分けをアミダに変更しようかしら あたしがキョンと組むように書いて・・・ 21 09 ピ ピ ピ ピ ゴロゴロしてたら呼ばれた。お風呂か 22 01ピ ピ ピ ピ お風呂上がり。巨人がサヨナラ勝ちしたことを親父に聞かされる。 それでこそ、常勝巨人軍よ。 さ、宿題の残りやらなきゃ 22 47 ピ ピ ピ ピ 宿題が終わって寝る準備していたら、阪中さんからメールが来た。 『日曜日あいてたらね、一緒に遊んでほしいのね』 『いいわ』と返事 23 14 ピ ピ ピ ピ 布団に入りキョンにメールを出す。『明日遅れたらまたおごってね』 すぐ返事が来る『わかった。』 フフ素直ね 23 15 ピ ピ ピ ピ みくるちゃんにもメール出す。『明日もキョンにおごらせましょ』 みくるちゃんも返事が早いわ。『そうですね』か。意外と黒いのかしら 23 21ピ ピ ピ ピ 就寝 7 00 ピ ピ ピ ピ 起床。ご飯を食べて身支度をする。 7 43 ピ ピ ピ ピ 駅前へ出発。8時ちょっとには着きそうね。 8 06 ピ ピ ピ ピ 駅前が見えるとこにつく え?なんでキョンがもういるの?見間違い? 8 10 ピ ピ ピ ピ みくるちゃんと古泉くんが挨拶してくる。それどころじゃないのに・・ キョンは微妙に笑ってるし・・・なんなのよ、もう 「た、たまには団長がおごってやるわ」強がっておこう。 これからは8時ちょっと前にこようかしら それにしてもキョンが早く来るなんて…
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11 36 キョン「はぁ、なんでこんなに遅く帰らなきゃいけねんだよ。」 俺はハルヒに付き合わさせられて遅く帰っていたときだった。 もぞもぞと動いていた物があった。 それを見てみると視界が暗くなった。俺が覚えている事はこれくらいしか無い。 7月6日 午後4 00 SOS団部室 ガチャ ハルヒ「みんないる~て、有希と古泉くんだけ~、みくるちゃんは。」 古泉「朝日奈さんなら少し遅れてくると、そういえばキョンさんは。」 ハルヒ「キョンだったら今日は休みよ。」 ハルヒ「なんか暇だから今日は帰るわ、古泉くんと有希も早く帰りなさいよ。」 古泉「そうですかではお言葉に甘えて帰らしてもらいます、では。」 続く
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今日のハルヒは少し変だ。 どいつよりも一番長くハルヒと付き合ってきた俺が言うのだから間違いない。 いつもは蝉のようにうるさいハルヒが、今日は何故か静かだし、 顔もなんだか考え事をしているような顔だ。 「どうしたハルヒ。」 俺は休み時間になってからずっと窓の外を眺めているハルヒに話しかけた。 「なにがよ。」 「元気ないじゃないか。」 俺がそう言うと、ハルヒは眉と眉のあいだにしわをつくって、 「私はいつでも元気よ。」 「そうかね。そうは見えないんだがな。」 ハルヒは俺の言葉を無視し、窓の外に目をやり、 「今日も来るんでしょうね」 「どこにだ。」 「SOS団部室によ。」 いちいち聞くこともないだろうよ。 「ああ、行くよ。」 ハルヒは窓のそとにやっていた視線を俺の目に向け言った。 「絶対よ。」 今日の授業も全て終わり、俺はいつものようにSOS団部室―実際は文芸部室なのだが―に向かった。 ドアをコンコンとノックする。これもまたいつも通りだ。 「どうぞ。」 朝比奈さんの声でドアを開けると、ハルヒはもう既に団長席に座っていた。 「遅いじゃない。」 何を言ってる、いつも通りだ。 「来ようと思えばもっと早く来れるでしょう?まったく、意識が薄いのよ。 部室への集合にも罰金制度を取り入れようかしら・・・。」 なにやら不穏なことをぶつぶつ言っている。おいおい勘弁してくれ。 休日のオゴリだけでもきついのにそれに上乗せされちゃあ、たまったもんじゃねぇぜ。 「なら、明日からはもっと早く来るって約束しなさいよ。」 へいへい。だが、どうせ早く来ても俺のやることといったら古泉とのオセロぐらいしかないのだが。 「今日は負けませんよ。」 古泉は長テーブルにオセロのボードを広げて既にスタンバイOKのようだ。 お前はそう言って毎回負けるんだよなぁ。 俺と古泉がオセロをしている間、ハルヒは珍しくいつものようにパソコンをつけずに、 俺と古泉の勝負風景をじっと眺めていた。 「なぁハルヒ。」 俺は視線はオセロのボードに落としたまま言った。 「なによ。」 「見られてると非常にやりにくいのだが。」 「プロの将棋師とかはたくさんの人に注目されてる中でやるのよ? これぐらい耐えられなくてどうするのよ。」 どうもせん。大体、俺はプロじゃないし、今やってるのは将棋でもない。オセロだ。 そんなツッコミを入れつつ、俺は古泉の白を黒に変える。 「いやぁ、参りました。完敗です。」 古泉は両手をあげて言う。 「古泉くん弱いわねー。」 ハルヒはパイプ椅子から立ち上がった。何だ? 「私がやるわ。古泉くん代わって。」 マジで? 「どうぞどうぞ。でも、彼は強いですよ。」 お前が弱いだけだろうが。 ハルヒは古泉から譲りうけた席にでんと座り、 古泉はさっきまでハルヒが座っていた席に腰掛けた。 「さぁ、キョン。始めるわよ。私が黒ね!」 そう言ってハルヒはボードに一手目を置いた。 やれやれ。 結果。 俺が勝った。 「何よコレぇ!キョン!もう一回よ!」 またかよ。お前は勝てるまで続けるような気がする。 今度は俺が先手で始まった。 そして結果。 俺が勝った。 「なーにーコーレー!!なんで私が馬鹿キョンに負けるのよ!!」 毎日糞弱い古泉と鍛えているんだ。馬鹿にしないでほしい。 「もう一回よ!!」 ・・・やれやれ。 「やった、勝った!キョン、あんた大した事ないわねー。」 俺に5回も負けといてよく言えるな。 「あんたはいつも古泉君と鍛えてるでしょー?私はオセロなんて滅多にやらないもん。」 なんじゃそりゃ。小学生か。 ふと、横を見ると古泉がニヤニヤしながらこちらを見ていた。何が面白いんだ。 「古泉くん!」 「なんでしょうか?」 「他にゲーム持ってないの?なんかこう、SOS団みんなで遊べるようなもの!」 そんなにたくさんゲームを学校に持ってきてるわけないだろう。 「ありますよ。」 あるんかい。 古泉はバッグのファスナーをあけると、中からずるずるとなにか取り出した。 「何だそれは?」 古泉はニコリと笑って見せた。 「人生ゲームです。」 「人生ゲームね!面白そうじゃない!有希!みくるちゃん!あなた達も参加しなさい!」 ハルヒの顔は輝いている。朝の鬱モードはもう既にどこかに吹っ飛んでしまったらしい。 「ふぇ?」 編み物をしていた朝比奈さんは、何の話か聞いていなかったらしく、きょとんをした表情で顔を上げる。 「だから、人生ゲームよ。有希ちゃんも、ほら。」 ハルヒが言うと、長門は読んでいた本をぱたんと閉じ、すたすたと俺の横の席まで歩いてきてすとんと座った。 「始めるわよ。みくるちゃんと古泉くんも席に着きなさい。」 朝比奈さんと古泉も着席し、ゲームが始まった。 「やった、結婚よ!いいでしょ、キョン。羨ましい?」 羨ましくない。ボード上の世界で結婚してもしょうがないだろう。 「でもあんた、現実でも、結婚はおろか彼女すらできないんじゃない?」 痛いところを突くな。と、次は俺の番か。 俺は出た数だけ駒を進める。 ん?「株で1000万儲けた」、ねぇ。本当にあればいいのにな。 現実はそんなに甘くないのだよ。 最終的に勝者になったのは長門だった。 その次からハルヒ、俺、朝日奈さん、古泉の順だ。 古泉お前、全員でやってもやっぱり弱いのな。 「面白かったわ!古泉くん、明日はあのスゴロク持ってきてちょうだい!」 あの スゴロク・・・?っていうとあれか。 大晦日のときにやったSOS団オリジナルの、やたらと俺いじめのマスが多いスゴロク。 あれはもうやりたくないな・・・。 それから数十分して。 ぱたん。と、長門の本が閉じられた。 「今日は皆で帰るわよ!」 ハルヒは両手を腰に当てて、偉そうに言った。 「すまん、ハルヒ。俺は今日早めに帰って見たいドラマがあるんだ。」 「何言ってるのよ。そんなの録画しとけばよかったんじゃない。 いい、キョン?団長の命令は絶対なのよ。例外は認められないわ。」 ハルヒは眉を吊り上げながら、俺に顔をぐいっと近づけて言った。やれやれ。 帰り道、ハルヒはいつも以上にやたら活発だった。 急に競争をしようだとか、荷物持ちのじゃんけんをしようだとか小学生レベルの事を言い出したり、 どこから持ってきたのか、眼鏡を長門にかけさせて遊んだり、 朝比奈さんの胸を・・・っておい!!何をしているハルヒ!! お前がもし男だったら俺の鉄槌の拳が飛んでいたところだ。 しばらくすると、はしゃぎ疲れたらしい、歩くのがゆっくりになってきた。 「ハルヒ、お前今日はやけに元気がいいな。」 「そう?いつももこれぐらいだと思うけど。」 ハルヒは軽く息を切らしながらハイビスカススマイルで答えた。 「そうかねぇ。」 しばらくそのまま歩いていると、ハルヒは急に足を止めた。どうした? 見ると、ハルヒの顔は先程のようなスマイリーな表情ではなく、 真面目な顔になっていた。 「ねぇ皆。ちょっと聞いて欲しいんだけど・・・。」 他の奴等も足を止め、ハルヒに注目する。 「・・・・・・・・・。」 ハルヒはそのまま黙り込む。何だ、言いたい事があるなら早く言えよ。 「・・・・・・。」 ハルヒは小さく口を開いて声を発しようとしたが、すぐにやめて口を閉じた。 焦らすな。早く言え。 それからまた黙り込んだあと、急にまたさっきのようなスマイルに戻って口を開いた。 「いや、ごめん。なんでもないわ。つまらないことだから気にしないで。」 そう言うと、ハルヒはまた歩き出した。合わせて俺達も歩き出す。 ハルヒが前で歩いていた朝比奈さんのところに駆けていったのを見計らって、 古泉は俺に近づいてきて小声で言った。 「何かありますね。」 「・・・ああ。」 次の日、朝になるとハルヒはまた鬱モードに突入していた。 「よぉ。」 俺がバッグを机の上に置きながらハルヒに話しかけると、 ハルヒは挨拶を返すことなく言った。 「今日何日だっけ?」 そんなの前の黒板の日付みればいいだろ。 「3月・・・9日よね?」 ああ。 「金曜日よね?」 ああ。それがどうした。 「いや・・・、なんでもない。」 やっぱり何かあるな。昨日のハルヒも今日のハルヒも何かおかしい。 テンションも不規則に上がり下がりするし。 「ねぇキョン。」 ハルヒは顔をずいっと近づけてきた。 「今日も部室来なさいよね。」 昨日ハルヒに部室の集合に関してあーだこーだ言われたため、 今日はホームルームが終わってすぐに部室に向かった。 部室につくと、古泉がいつものニヤケ顔でパイプ椅子に座っていた。 「やぁ。」 古泉はさわやかな表情で慣れ慣れしく左手を挙げた。 「朝比奈さんはまだか。」 「えぇ。長門さんならいますけどね。」 古泉が片手で示した先には、いつも通り窓辺で本を読む長門がいた。 よくそんなに本ばかり読んで飽きないものだ。 「ところで、涼宮さんはまだでしょうか?」 「岡部に話があるんだとさ。まだ来ないと思うぞ。」 「それは都合がいいですね。話があるのですが、良いですか?」 なんだ。また何か面倒ごとに巻き込むつもりか? 「実は、昨日の夕方から夜中にかけて、大量の閉鎖空間が発生したんですよ。 はっきり申し上げますと、昨日の量は異常でした。 最近落ち着いてきたと思ってたんですがね。」 古泉はやれやれ、と肩をすくめた。 「・・・どういうことだ?」 俺は目を細めてみせる。 「わかりません。僕達の機関の調査では。」 古泉はニコニコ顔を崩さず言う。 「悩み事とかあるんじゃないでしょうか。 恋の悩みとか。ベッドの中であなたのことを考えるあまりに、 異常な量の閉鎖空間を生み出してしまった、とか。」 冗談にしては笑えないぞ古泉。 「完全に否定はできませんよ?フフフ。」 ・・・何が面白いんだ古泉。というか、何故俺なんだ。 古泉は心外そうな顔をして、 「おや?あなたもしかしてまだ・・・」 そこで言いとどまると、ニヤケ面を5割増しして言った。 「いえ、言わないでおきましょう。」 何故か古泉のニヤケが無性に憎く見えた。 「何にせよ、涼宮さんが何かに苛立っているというのは明らかです。 ただし、僕達と一緒にいるときは閉鎖空間の発生はみられないそうです。」 何に苛立っているというんだ。 「ですから、それがわからなくて困っているのです。」 昨日今日のハルヒの様子が変なのもそのせいか。 「そのようですね。ところで、昨日の話ですが。 昨日涼宮さんが言いとどまった言葉、なんだと思いますか?」 さぁな。 「僕達になにか伝えようとしていましたね。 あの表情からして、とても重要な話だと思うのですが、どうでしょう?」 知らん。 「全員に呼びかけたってことは、告白ってわけではないでしょうね。」 古泉はニヤケ顔を更に5割増する。なんだその目は。 「いえ、何でもありませんよ。フフフ。」 そう言って微笑む古泉の顔が不気味に見えて仕方が無い。 「あの涼宮さんが言いとどまった言葉、 あれが涼宮さんの苛立ちと関係があるような気がするのですが。」 さぁな。 「涼宮さんに聞いてみたら早い話ですがね。」 ハルヒが言いたくないことを無理に聞く必要も無いだろう。やめとけ。 「当然そのつもりですよ。まぁ、聞かずともいずれ彼女から話してくれるでしょう。」 そうだな。 「ヤッホー!!皆元気~?」 毎回のようにドアを蹴り破って登場した我らが団長。後ろには朝比奈さんがついている。 「みくるちゃんとそこの廊下であって、一緒に来たのよ。」 そうかい。 「さて、キョンと古泉くん。」 「なんだ。」 俺が言うと、ハルヒは少し顔をしかめ、ドアの方を指さした。 ああ、そういうことね。と、俺は朝比奈さんをちらりと見て、 ドアの元まで行き、一礼して部室を出た。遅れて古泉も。 「どうぞ」 朝比奈さんの声を確認し、ドアを開けると、意外な光景を目にした。 朝比奈さんがメイド服を着ているのはいつも通りだが、 なんとハルヒが朝比奈さんが前に着ていたナース服を着ているではないか。 「これはこれは。」 古泉も少なからず驚いているようだった。 「たまには私も着てみたわ。どう?」 ハルヒは得意気に髪を掻きあげた。 「いいんじゃないか。」 「何よ、その薄いリアクションは! もっとこう、『わー!ハルヒ可愛い!!』とかないの?」 わー。ハルヒかわいー。 「あーもう、イライラするわねー。もういいわ。」 とりあえず薄くリアクションしておいたが、内心、可愛いと思っていた。 朝比奈さんのナース姿も良かったが、ハルヒのそれもなかなかのものだ。 「僕は似合ってると思いますがね。可愛いですよ。」 「でしょ?ありがとう古泉くん。 やっぱりわかる人にはわかるのよねー。」 喜べハルヒ。その格好で秋葉原に行けば注目の的だぞ。 お前が言う わかる人 ってのもいっぱいいる。 …ところで、いきなりナース服を着だしたりだとか、 やはり最近のハルヒは変だ。 まぁいいか、楽しそうだし。教室のときのように鬱にしてるのより何倍もましだな。 「さぁ、スゴロクやるわよ、スゴロク!!古泉くん、持ってきてるでしょうね?」 げ。 「はい、もちろん。」 げげ。 古泉はバッグのファスナーを開けると、ずるずると大きな紙を取り出した。 やれやれ。 今日は日曜日、不思議探索パトロールをすることになってる日だ。 少しばかり寝坊した俺は、大急ぎで歯を磨き、髪を直し、服を着て待ち合わせ場所に走った。 他のメンバーは既に揃っている。 「遅い! 遅刻!! 罰金!!!」 このフレーズを聞くのも何回目だろう。これを聞くたびに俺の財布は打撃を受ける。 「と、言いたいところだけど、今日は私がおごるわ。」 は? 今ハルヒ何と言った?パードゥンミー?ワンモア、プリーズ? 「だから、今日は私がおごってあげるって言ってるじゃない。」 俺の耳は故障してしまったのだろうか。すまん、もう一度だけ頼む。 「今日は私のおごりよ!」 なんと。なんとなんと。思わず目眩がした。 今日は雪でも降るんじゃないか。いや、もう隕石が雨のように降ってきそうな勢いだ。 「何馬鹿なこと言ってんのよ。行くわよ、キョン。」 やはりおかしい。絶対におかしい。ハルヒがおごるなんて普通考えられない。 「キョンは何にするの?今日は高いもの頼んでもらっていいわよ!」 こんなことを言う事も、だ。どういう気の変わりようだ? 「何もないわよ。ほら、さっさと選んじゃいなさいよ。」 俺は何かハルヒの陰謀があるのではないか、と あえて高い物を選ばず、中くらいの物を注文した。 「何よ、遠慮することにないのに。」 何か怖くてな。すまん。 そして俺達は食事を済ませ、毎回恒例のくじ引きタイムに入った。 まず古泉が引く。無印。 次に朝日奈さん。無印。 次に俺。赤印 次に長門。無印。 「て、ことは私は赤ね。」 ハルヒは爪楊枝を掴んでいた手を開く。 爪楊枝の先には赤い印がはっきりと刻まれていた。 横に彼女を連れて、手を繋いで歩く。これはモテない男誰もが夢見ることだろう。 しかし、俺が手を繋ぐのではなく、手首を掴まれているのは何故だろう。 答えは簡単。連れている女が涼宮ハルヒだからだ。 「ちょっとキョン!もっとシャキシャキ歩きなさいよ! まず何処行く?デパートの食料品店で試食品でも食べ歩く? それとも、服でも買いに行こうか?今日はたくさんお金持ってきてるしね。」 どうやらこいつは 不思議 を探す気などさらさら無いらしい。 「どこでもいいぞ。お前のすきなところで。」 なんだか今日のハルヒの足取りは軽い。全身からウキウキオーラが放射されまくっている。 「あっそうだキョン!あたし観たい映画があるんだったわ! 一緒に観に行きましょう!」 映画・・・か。まぁ、このままハルヒに色々連れまわされるよりはいいだろう。 「決定ね!じゃあ行きましょう!」 俺は手首を掴まれたまま、映画館まで連れて行かされた。 なにやら甘ったるい匂いがするのは、受付の横の、なにやら色々飲食物を売ってる店のせいだろう。 「チケット2枚。」 俺がハルヒの分のチケットも買ってやっていると、ハルヒがポップコーンとコーラを持ってきて、 「はい、これ。あんたの分よ。私のおごりね。」 今日のハルヒは気前がいいな。 「それじゃあ行きましょう。早く行かないと始まっちゃうわ!」 そう言ってハルヒはまた俺の手首を掴んだ。やれやれ。 映写機がじりじりとスクリーンに映画を映し出す。 観ている内にわかったが、これは流行りの 感動モノ の映画らしい。 そして、今が一番泣き所のクライマックスのシーンだと思われるが、 どうした事か、俺の目からは涙の一滴すら落ちてこない。 もう少しピュアな心を持っていれば泣けるのだろうが、 俺の心はとっくにがさがさに荒んでいるのでな。 俺がふと横を見ると、意外な光景がそこにあった。 映画にかぶりついているハルヒの目に、若干涙が浮かんでいるではないか。 ハルヒはしきりに、服の袖で目を拭っている。 そのままハルヒはしばらくスクリーンを凝視していたが、俺の視線に気付くと、呆れ顔をつくって言った。 「何であんたこれで泣けないの?馬鹿じゃない?」 馬鹿ではないと思う。 外に出てみると、さっきは暗くてよくわからなかったが、ハルヒの目元が少し赤くなっていた。 「よかったわー、あの映画・・・。 あんなクオリティの高い映画はこの先そうそう作れないと思うわ。」 俺は全然泣けなかったけどな。 「あれで泣けないってのがおかしいのよ! あれで泣けないなんて信じられないわ。人間じゃないわ!」 おいおい、ついには人間以下かよ。 「まぁいいわ。楽しかったし。 おっと、そろそろ集合時間ね。待ち合わせ場所に急ぎましょう!」 ハルヒはそう言うと俺の手首を掴む。もうちょっと穏やかにできないのか。 せめて手を繋ぐとか。 「手、手ってあんたと?私が?」 冗談だ。本気にするなよ。 「あ、冗談ね。冗談か。 そうよね、あんたと手繋いで恋人同士だと思われたらとんでもないわよ!」 ハルヒは何故か少し動揺しながら言った。なにを焦ってんだか。 ハルヒが俺の手首を掴んでずんずんと商店街を行く。 と、ここで見慣れた二人組が目に入った。 「あ、谷口と国木田じゃねぇか。」 俺は足を止める。と、同時にハルヒも足を止めた。 「ようキョン。」 「奇遇だね、何やってたんだい、キョン。」 谷口と国木田は私服姿だ。お前等こそ男二人で何やってんだ? 「別に。ゲーセンとか行ってぶらぶらと遊んでただけさ。」 そう言うと、谷口は俺とハルヒを舐めまわすように見てきた。何だ? 「お前等は二人してデートか?いいねぇ、お熱くて。」 馬鹿言うな。これはSOS団の不思議探索パトロールだ。 「不思議探索パトロール?それって何するんだい?」 国木田の言葉に少し返答に困った。まさか 映画をみたりすること とは言えまい。 「街中で不思議な事が無いか探すんだよ。」 適当にごまかしておく。 「ふーん。変なことしてるねぇ。まぁいいや。じゃあ、僕達は行くよ。じゃあねキョン。」 「またな。」 「おう、じゃあな。あ、そうだ、待て谷口。チャック、開いてるぞ。」 「うわっマジかよ!!っていうか何で国木田教えてくれなかったんだよ!」 「え?それって新しいファッションかなんかじゃないの?」 「違ぇよ! やべーさっきこのままナンパしちまったよ。変態だと思われたかも・・・。」 「大丈夫だよ、谷口。君はもう顔が変態的だから。」 「えっ!?何それ?どういう意味!?」 「それじゃあね、キョン。」 「無視するなよ国木田!なんか今日お前悪い子だぞ!」 「じゃあな。国木田、谷口」 そう言って俺達は谷口達と別れた。 何やら後ろから「谷口ウザイ」という国木田の声が聞こえた気がするが空耳だろう。 集合場所につくと、既に他三人は揃っていた。 「ゴッメーン。遅れちゃった!」 ハルヒは右手を挙げる。 「それでは、また喫茶店に入りましょうか。」 本日2度目の喫茶店。今度もハルヒのおごりだった。 「それじゃあ、くじ引きしましょう。」 ハルヒは慣れた手つきで爪楊枝に印をつける。 まず長門が引いた。赤印。 次に俺。無印。 次に朝比奈さん。無印。やった朝日奈さんと一緒だ。 次に古泉。赤印。 「じゃ、私が無印ね。」 班分けは俺とハルヒと朝日奈さん、古泉と長門になった。 俺はいいのだが、古泉と長門は二人で話すことなどあるのだろうか、と少し心配になる。 ハルヒは今度は片手は俺の手首、もう片方の手は朝比奈さんの手首を掴んで歩き出した。 「出発よ!さて、キョン、みくるちゃん?何処に行きたい?」 俺はさっきも言っただろう、お前に任せると。 「みくるちゃんは?」 「えーっと・・・じゃあ、お茶の葉を買いに行きたいです。」 「じゃあまずはお茶の葉ね!行きましょう!」 やれやれ。 歩く事数分、茶葉の専門店みたいなところについた。 朝比奈さんは目を輝かせていたが、俺とハルヒはお茶の葉のことについてなんて全然知識ないから 店内に置かれた椅子にすわって暇を持て余していた。 朝比奈さんは店長さんとお茶の話で盛り上がっている。 少し耳を傾けてみたがさっぱりわからん。 しばらくして、 「お待たせしました。では行きましょう。」 楽しそうに駆け寄ってきた朝日奈さんは、茶葉の入った箱を抱えていた。 その後、デパートに行って試食品を食べ歩くなど地味ーなことをしたり、 ゲームセンターに行ってUFOキャッチャーを楽しんだりした。 楽しい時間は瞬く間に過ぎるもので、時刻はあっという間に集合時間前だ。 「楽しかったわー。キョンのUFOキャッチャーの腕前は意外だったわねー。」 ハルヒは俺が取ってやった熊のぬいぐるみを両手に抱えて、もこもこさせながら言った。 ゲーセンは谷口達とよく行ったからな。SOS団に入ってからは、あまり行くことも無くなったが。 「私も楽しかったです。ありがとうキョンくん」 いや、俺にお礼を言われても困るんですけど・・・。 「あ、有希!古泉くん!」 まだ集合10分前なのに、長門と古泉は既に集合場所に到着していた。 やはりやることがなかったのだろう。 そしてその日はそのまま解散することになった。 涼宮ハルヒの異変 下
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SOS団の会議が行われた・・・。 ハルヒ「ね?面白そうじゃない?!」 キョン「おお!ハルヒもいいもんみつけたじゃないか!」 ハルヒ「わ、私にいわないでよ!ニュースサイトでみたんだもんっ!」 古泉「いえいえ・・、こんな面白いネットゲームを教えてくれたのは ハルヒさんです。ありがとうございます。」 ハルヒ「んもう、てれるじゃない・・・。」 SOS団はチャットロワイヤルというゲームを始めた チャットロワイヤルとは、チャットをしながら バトルを楽しむネットゲームだ。 チャットのように普通の発言をすると、 その発言のダメージが自動で作られ そのダメージを相手に与える。 今、ネットでもっとも有名な チャットロワイヤルにSOS団はきたのだ。 なお、このチャットロワイヤルは チームバトル式になっている。 「VIP」 ・ブーンするお ・ケツ穴ぷーん まずはこのチームと 「SOS団」 ・ハルヒ団長 ・キョン ・みくる ・古泉 ・長門 SOS団が対決になった・ ハルヒ「出場させるチーム・・・・。」 古泉「ハハハハハ・・・。面白いですね・・・僕がいきます」 みくる「わ、私もいきます!!」 そう、このバトルは 2VS2なのだ。出場しないものは応援となるのである。 古泉「いきますよ」 ケツ穴ぷーん:ってか夏厨だろ?キモスwwww ケツ穴ぷーん は腰を振っている!! 古泉 の攻撃! 古泉:ほう、これはドラクエみたいですね。 古泉 はニコニコしながら顔を蹴った! みくる:そうですねー。 みくる はチェーンソーをケツ穴ぷーんの太ももに切りつけた!! ケツ穴ぷーん:痛スwwwwっをっを みくる に包丁を刺した!!!! みくるは死亡した.... 第2ラウンド スタート。 古泉:第2ラウンド・・・あぁ、ログ掃除ですか。 古泉はケツ穴ぷーん の髪の毛を掴み 壁にたたきつけた! ケツ穴ぷーん は倒れた... 第3ラウンド スタート VIP:OKOK VIPはこけた! 武器「バルカン」投下 古泉:武器ゲット方法がわかりませんが・・・。 針でVIPを刺した!!!!!!!! VIP:バルカン支給 バルカンで小泉を撃った!!!2発HIT 古泉、ピンチだ! 古泉:ややこしいですね・・・。 親指を目に突き入れた!!!! VIPは死んだ.... ハルヒ「あ、や、やるじゃないの古泉!!!!」 古泉「次は、ハルヒさんですよ。」 ハルヒ「わかったわぁ!」 チェーンソー:うはwwよろ。 チェーンソーを切りつけた!!!!!しかし、よけられた!! ハルヒ:チェーンソー・・・・購入したのね。ネトゲに金払うなんて! ビンタをした!! なかなかのダメージ! チェーンソー:そぉおおい!! ハルヒの首に直撃!なまなましい血が舞った!!!! 古泉:弱いですねぇ・・・私は最強ですよ・・・? キョン:チーム作成はフリーだな? ハルヒ:え、ええ・・・。 古泉:最強小泉チームを作成しましたよ キョン:悪いなハルヒ、そっちへいく。 ハルヒ:・・・・・・敵。まずは私を倒しなさい!! -みくる&長門はすでに帰っていた- 古泉:ハァアアアア!!!!!! 腹をかいている! ハルヒ:馬鹿ね・・・・クズとは違うのよ! 肩を強く掴み、パンチを顔にした!! 吐血! 第2ラウンド スタート キョン:説明ページ読み終わったぞ。 【W攻撃】 キョンはハルヒを行動不能にした! ハルヒ:?!呪文?!特殊・・・・技?! 動けない。 古泉:私も読み終わりましたよwwww 【蹴り】 腹に蹴りをいれた!ハルヒ はつばを古泉の顔につけた! 古泉:きたないですね【殴る】 ハルヒ にクリニティカルヒット! 古泉:ハァ・・・これだからネカマは【刺し】 コンバットナイフで刺した!!!! ハルヒ:う・・・・わ・・・・あ・・ひど・・・・ つばと血をたらしながらもがいている! ハルヒ:つけ・・てもない・・・・・・の・・に・・・・・沈黙マーク・・・が・・・・ 鼻水を舌にたらしている。。。。(とどめコマンド可能) キョン:しね!【とどめ】 蹴りを目に突き飛ばした!! ハルヒ:ヒグァァ! ハルヒ は死んだ..... ハルヒ:・・・・・・・・。 古泉:ははは、すみません・・・。ハルヒさんがかわいかったもので。 ハルヒ:もう、古泉君ったら・・。あれ、キョンは・・・ キョン:悪かったなハルヒ、あ、帰りカラオケいくか? ハルヒ:いいわねいいわね! 古泉:じゃぁみくるさんたちも呼びましょう!! このとき、ハルヒの憂鬱は溶けた。 こうしてハルヒは、SOS団と共に 幸せな日常を過ごしたのであった。 なお、この戦いは7月27日 16時23分に行われたものである。 ────野球部・ 宇葉www・尾毛ww(笑)
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文字サイズ小で上手く表示されると思います 涼宮ハルヒの愛惜 最終話 ハルヒの選択 後編 古泉。お前、ハルヒがSOS団を作った目的って覚えているか? 「え? ……はい、覚えています」 呆けた顔の超能力者は、床に座ったままで頷く。 そうか、じゃあ言ってみろ。 「宇宙人や未来人、超能力者を見つけて一緒に遊ぶこと……ですか?」 そうだ。 あの時のハルヒの楽しそうな顔は、生涯忘れられそうにないぜ。 ハルヒにとって未来人や宇宙人、超能力者ってのはいったいなんだと思う? 「涼宮さんにとっての……?」 そうさ、あいつは別に宇宙人でも未来人でも超能力者でも異世界人でも男でも女でもい い、自分が特別だって思えるくらいに一緒に居て楽しい存在を探してたんだ。そして見つ かったのが、朝比奈さんに長門、そしてお前。あと、ついでに俺だな。あれから半年以上 一緒に居るんだ、そろそろわかろうぜ? 「何を……でしょうか」 おいおい、俺に全部言わせるつもりか? 古泉の目の前に立ち、俺は溜息をついた。その溜息は古泉だけに向けられた物ではなく ……何ていうか自分にも向けられた物でもある。 あいつはお前らの正体に気づいてないのに、宇宙人も未来人も超能力者も探さなくなっ た。つまり、あいつは目的の存在をもう見つけてるんだよ。あいつが見つけた宇宙人でも 未来人でも超能力者でもなく、一緒に居て自分が特別な存在だって思えちまう程楽しい存 在ってのは……正体なんて関係ない、団員である俺達なんだよ。 ……やれやれ、お互い大変な奴に選ばれちまったもんだよな。 俺はまだ座ったままでいる古泉の前に手を差し出した。 古泉、もしもお前がハルヒと一緒に居る事から降りるのなら仕方ないが、まだそのつも りが無いのならついてこい。ハルヒはお前を待ってるぞ。みんなも……ついでに俺もな。 涙で歪んでいた古泉の目に――遅せーよ――ようやく力が戻った。 古泉の手が俺の手を掴んだ所で、俺は目を覚ましてやろうとわざと乱暴に引き起こす。 よろけながら立ち上がり 「……また、借りができてしまいましたね」 照れくさそうにしている古泉を睨み、 なんのことだ。 俺はそう言い返した。 「今回の機関の動きについて僕にわかる事は一つだけ、涼宮さんの誘拐に森さんが関わっ ているという事だけです」 鶴屋さんが用意してくれた10人は乗れそうな3列シートの大型ワゴン車――運転手付 き――の中で、ようやく調子を取り戻した古泉が口を開いた。 ちなみに車の持ち主である鶴屋さんは「内緒話ししなきゃなんでしょ? あたしは前に 座ってるからさ。目的地が決まるまではあたしの心当たりをぐるぐる回ってるからね」と 言って助手席に座ってくれている。 ここまで手助けしてもらっておいて、何も言えなくてすみません。 「森さんってあの、孤島の別荘で色々とお世話をしてくれた人ですよね」 「ええ、彼女です」 って事は、あの人も機関とやらの一員なのか? 「はい。機関で最も優秀な人材と言われています」 躊躇いがちに答える、古泉の顔色がやけに悪い。 「……あの、どうして森さんは涼宮さんを誘拐したんでしょうか」 「そこまでは。ただ、実際に機関の部隊が動いている様なので今回の件は彼女の独断では なく機関の作戦による物だと思います。ですが僕はメンバーから外されているのでこれ以 上の事はわかりません」 古泉、前に言ってた気配がどうとかでハルヒの居場所ってのはわからないのか? 「かなり近づけば大体の居場所はわかるんですが、今はただ、彼女が無事だという事しか わかりません」 そうか……。長門、喜緑さんからあれから連絡は? 「しばらく待って欲しいとメールが来てから、連絡が無い」 喜緑さんでも状況を掴めないとなるとこれは大事だな……ここまでくると、俺が頼れそ うなのは後1人しか居ない。 俺が恐る恐る朝比奈さんへと視線を向けると、 「……ごめんなさい」 何も聞く前に朝比奈さんは暗い顔で俯いてしまった。 ……ですよね。 そもそも、これが話していい事なら前みたいに事が起きる前に警告なり相談なりされそ うなもんだ。 俺が異変に気づいたきっかけである朝比奈さんからあった電話の内容は、未来からの指 示で今すぐハルヒを探さなくちゃいけないという事だけだった。 何の事かわからなかった俺と朝比奈さんは、ハルヒや古泉に電話してみたり、鶴屋さん に調べてもらっていく間にハルヒが誘拐されたという結論に行き着いたわけだ。 最初、俺はハルヒが「宇宙人にさらわれてみたい!」等と思いついたんじゃないかと心 配したんだが……相手が謎の機関だったんじゃ……どっちもどっちだよなぁ。 しかし……超能力者も未来人も元宇宙人も駄目となると、後は現役宇宙人である喜緑さ んの連絡を待つしかないんだろうか。 思わず無言になった俺達が居る後部座席に、 「ね~! お話は終わった?」 助手席から退屈そうな鶴屋さんの声が聞こえてきた。 すみません、まだ何処へ行けばいいのかわからなくて。 「そうなの? とりあえずハルにゃんの居そうな場所には着いたんだけど」 当たり前の様に告げられたその言葉に呆然とする俺達に、鶴屋さんは楽しそうにフロン トガラスの向こうを指差している。 気づけばいつの間にか車は止まっていて、鶴屋さんが指差す先にはヘッドライトに照ら された北高校の校門があった。 車を飛び出した俺達は、真夜中の校庭を走っていく。 そんな中、俺は隣を走る鶴屋さんに疑問をぶつけてみた。 鶴屋さん。ここにハルヒがいるって、どうしてわかったんですか? 「えっ? ああ、古泉君の住んでる場所を探したのと同じ方法で探したのさ!」 古泉の家って……確か、俺との通話記録から契約情報を割り出したんでしたっけ? 「そうそう。学校のデータを探してる時間がなかったから携帯会社のサーバーにちょろん とアクセスしてね! それで、ついでにみんなの通話記録を検索してみたらビンゴってわ けさ」 ビンゴ、ですか。 さらわれた後、誰かがハルヒと電話した記録が残ってたんだろうか。 「みんなの通信記録の中で1人だけ居た不自然な反応。その人はずっとこの場所で留まっ てたってわけ」 それが、ハルヒって事ですか。 「え? 違う違う!」 慌てて鶴屋さんは手を振って見せる。 「見つかった不自然な反応っていうのはね? みんなから聞いた話ではハルにゃんを探し てるはずなのに、ず~っとこの学校の中でじっとしてたのさ。それはもちろんハルにゃん じゃなくって……あの人」 そういって鶴屋さんが指差した先、グランドの中央に立つ小さな人影。 俺達を待ち構える様に立ちはだかったのは――俺が最後の切り札だと思っていた人 「……困ります」 マジかよ……。 月の光に照らされた穏やかな顔つきの上級生、喜緑江美里さんの姿だった。 ――別に言葉や態度で足止めされている訳ではないのだが、彼女の手前で全員が足を止 める。 機関とやらがどれ程やばい物なのか俺は知らん、古泉が何故か怖がっている森さんの凄 さってのもな。 そんな俺でもこの人のやばさなら何となくだが分かるぞ。 大人しい上級生にしか見えない喜緑さんだが、その正体はれっきとした宇宙人なんだ。 その実力を俺より知っているのかも知れない古泉だけでなく、事情を知らない鶴屋さん でさえも迂闊に動けないでいる。 俺達を見回した後、 「このまま、何も聞かずに帰ってもらえないでしょうか」 喜緑さんは疲れたような声でそう言った。 この先にハルヒが居るんですね。 俺の質問に、喜緑さんは視線を向けるだけで何も答えてはくれない。 何も聞くな……って事か。 「ここまで来れば僕にもわかります。間違いなく、この先に涼宮さんが居ます」 そう言って、古泉は喜緑さんの後方にある部室棟の方向を指差した。 古泉、ハルヒは無事なんだろうな? 「今のところは」 とはいえここでのんびりしてていいとは思えない、何とか説得を試みようと俺が一歩踏 み出した時、 「待って」 後ろに立っていた長門が、俺の手を掴んで引き止めた。 「彼女は、私が引き受ける」 引き受けるったって……お前はもう普通の人間なんだろ? 以前、朝倉から俺を守ってくれた時なら話はわかるが、今のお前じゃそんな無茶はでき ないはずだ。 「大丈夫」 俺の目を見てそう言い切る長門は、ゆっくりと頷いた後 「信じて」 と、付け加えた。 どう考えたって大丈夫じゃない、相手は宇宙人でお前は元宇宙人でしかないんだ。 「…………」 ……そんな説得をした所で、お前が聞くわけはないか。 俺はそっと朝比奈さんの方へ視線を送る――これから起きるであろう未来を知っている はずの朝比奈さんに。 これがチートだの小細工だの歴史改竄だのと言われようが知った事か、俺は長門を危険 な目に合わせる訳にはいかないんだ。 そんな俺の思いを知ってなのかどうかはしらないが、朝比奈さんはしばらく迷った後、 目を閉じて小さく頷いてくれた。 すんません、後で怒られる様な事があったら俺に好きなだけ八つ当たりしてくださいね。 俺は朝比奈さんから長門に向き直り、その小さな両肩に手を乗せた。 本当に大丈夫なんだな。 「大丈夫」 俺を見つめている長門の目は、嘘をついている様には見えなかった。 そうか。危なくなったらすぐに助けを呼ぶんだぞ? 「そうする」 いつか見たのと同じ、何かを決意した顔で俺を見る長門の頭を撫でつつ、俺は頷いた。 よし……頼んだ。 ―― 感じるまま、感じる事だけを ―― 月明かりも差し込まない学校の中庭に、4人の高校生が走りこんでくる。 その姿を捕らえた監視カメラは、映像の中の動く物体を機械的にサーチしていった。 「……」 机に置かれたモニターの中を動く4人の人影を、森は無言のまま見つめている。 彼らが部室棟の入口付近に辿り着いた時、建物の入口とその周辺に隠れていた機関の実 行部隊が作戦通りに彼等を取り囲んだ。 まず、朝比奈みくるをマネキンを梱包するくらいに問題なく捕縛。 次に彼女を庇おうとした彼を捕縛。 抵抗しても無駄だと分かっているのだろう、古泉も抵抗を止める。 最後に…… てぇーいりゃー!! 4人中3人を捕まえて油断していたのだろう。油断していた黒服の男から警棒を奪い取 ったあたしは、迷う事無く相手の鎖骨付近に警棒を叩き込んだ。 何かが砕ける感触を感じる間もなく、残りの襲撃者に視線を向ける。 あたしが抵抗する事が余程予想外だったのかな? 動きを止めた男の1人に警棒を投げつけて、あたしは飛んでいく警棒を追いかけるよう にして駆け出す。 顔に向かって飛んできた警棒を両手で防ごうとする相手に、警棒よりも先にあたしの肘 が腹部にめり込む。くの字に曲がった男の顔に、ようやく飛んできた警棒が激突した。 「鶴屋さん?」 それが誰の声だったのかわからないけど、あたしの動きは止まらない。 地面に落ちた警棒を拾って、次の相手へと飛び掛っていく。 「無駄な抵抗をす ごっめんねー、聞いてる余裕ないのっ。 大きく開いた男の口に、あたしが投げた警棒が突き刺さった。 残った敵は……見える範囲に居るのは2人、見た目では武器無し。 身構える相手に、あたしはここからが正念場だと思ったんだけど……。 「退け」 現れた時と同じ、倒れた仲間を連れて音も無く黒服の襲撃者は去って行ってしまった。 暗闇の中、頬の傍にあるマイクを意識しながら小さな声で呟く。 実行部隊が壊滅した。プランBに移行する。 「かしこまりました」 無線から聞こえる返事には、僅かな動揺も感じられなかった。 言う必要はない事だが……。 目標の中に、鶴屋家の御令嬢が居る。 なんとなく、そう付け加えると 「……なるほど、実行部隊5人では歯が立たない訳ですな」 今度の返事には、少し楽しそうな響きがあった。 予定通りに頼むぞ、新川。 返事を待たずに無線を切った森は、来るべき時に備えて機器の撤収に取り掛かった。 「ふぇ~……こ、怖かったです~」 はいはい泣かない泣かないっ! みんな~怪我とかないかな? 涙目のみくるを慰めつつ、あたしはふらついている2人に声をかけた。 「俺は大丈夫です」 みくるを庇った時にぶつけた頭をさすりつつ、キョン君も答える。 「僕も怪我はありません。ですが、まさかここまで乱暴な手段に出るとは……」 ショックを受けた顔で古泉君は呟いた。 全力で追い返しておいてフォローするのもなんだけどさ、今の連中ってあたし達に危害 を加えるつもりはなかったみたいだよ? 「え?」 ほらこれ、さっきの奴らの落し物だけど。木製の警棒と防犯用の捕獲ロープだもん。こ れを見る限り何か目的があってあたし達を捕まえたかったみたいだね。ただ単に邪魔なだ けだったら、もっと簡単な方法があるっしょ。 そう、これって危害を加えずに捕獲したかったとしか思えないんだよね……。 今更だけど、敵の目的が何なのかを考え出したあたし達の前に 「お忙しいところ失礼します」 ――あたしの目には、その人は突然現れた様に見えた。 背中を冷たい汗が伝っていく。 さっきあたし達を捕まえようとした奴らが飛び出して来た時も、あたしはその動きにす ぐに気づいて反応できた。 それからもあたしは警戒を続けていたはずなのに、その男の人が口を開くまで、あたし はその人の存在に全く気がつけなかったのさ。 「貴方は……もしかして」 「新川さん」 キョン君と古泉君の言葉に、その男の人――執事服に身を包んだ落ち着いた雰囲気の男 性、新川さんは恭しく頭を下げてみせる。 「ご無沙汰しております」 「貴方も、ハルヒを誘拐した連中の仲間なんですか?」 キョン君の質問に、 「左様で御座います」 新川さんは間を置いて頷く。 「訳を聞かせてください」 凄く怖い顔をした古泉君が前に出ると、新川さんはすっと体をずらしてその視線を避け る。新川さんはあたし達の視線を一身に受けながら、部室棟の入口を手で指し示した。 「私の任務は、ここから先にそちらのお嬢様方2人を通さない事です。ご質問があれば、 この先に居る森がお答えします」 森という単語に、古泉君がまた体を震わせていた。 ……あたしとみくるは駄目だけど、キョン君と古泉君はハルにゃんの所に行っていいっ て事? 「仰るとおりで」 じゃー2人はお先に行っちゃって! 軽く言い切るあたしに、キョン君は驚いている。 「鶴屋さん?」 ほらほら急いだ急いだ! ハルにゃんを助けなきゃなんでしょ? ここで話してる時間 はないっさ! それでもまだ何か言いたげなキョン君だったけど、 「すみません、すぐに涼宮さんを連れて戻ります」 思い切りがいい男の子は高評価だねっ、古泉君は頭を下げて1人部室棟に走っていった。 「おい、待て古泉! ……すみません、もしも危なくなったら」 だーいじょうぶだって! 危なくなったらちゃんとみくるを連れて逃げるからさっ! あたしの言葉を聞いてもまだ不安そうだったキョン君だけど、みくるが無言で頷くのを 見ると古泉君を追いかけて部室棟に走って行った。 さっきの長門っちの時もそうだったけど、あれだけ心配性なキョン君がみくるが頷くと すぐに納得しちゃうってのは……まあ今は謎のままでいいっか。 2人の姿が階段の上に消えるのを見届けて、あたしは部室棟の入口で音も無く立ってい る新川さんに視線を戻した。 みくる~? 視線は変えないまま名前を呼ぶと、 「は、はい!」 少し後ろの方からみくるの可愛い返事が聞こえてきた。 あのさ、ちょろっと危ないから本校舎の中に隠れててくんないかな。 「え、え? ……鶴屋さん、何かするんですか?」 ん~……うん。暴れる。 あたしと新川さんの距離は、まだ間合いと呼ぶには遠すぎる距離だけど、あたしはゆっ くりと足を一歩前へ進めた。 「ええ? そんな、ここでキョン君達の帰りを待ってたほうが……」 「私としましても、ここは大人しくお待ちになられる方がよいかと思います」 余裕とか、落ち着き、そんなレベルじゃない。 新川さんから感じられるのは、圧倒的な力の差による――自負。 ね~新川さんって森さんと比べてどっちが強いのかな。 あたしの質問に新川さんは少し迷った後、 「森とは何度か手合わせした事は御座いますが、全て森が勝ちました」 そう答えた。 じゃあ、上に行った2人はここに残ってるより危険って事だよね? 距離にして10歩、自分の間合いに入ったあたしは何時もの様に体が望むままに構える。 「お答えしかねます」 そんなあたしを見ても、新川さんは真っ直ぐな姿勢で立ったままでいる。 恐れるな、考えるな! あたしは自分を奮い立たせて、新川さんに向かって走り出した。 ―― 私が、させない。 ―― どうして、こんな事を。 私がそう訪ねても、喜緑江美里は彼らが走り去って行った方向から視線を外そうとはし なかった。 すでに彼等の姿はここから見ることは出来ないかったが、そんな事は彼女にとって何の 問題でもないはず。 それにしても……わからない。 穏健派に属するはずの貴女がこんな事に加担する理由、それは何。 「……今は答えられません」 彼達の姿が旧館の方へと消えるのを見届けた後、彼女は振り向いてそう答えた。 今は……という事は。 いつになれば、答えられる。 私の質問に、彼女は首を横に振る。 「私にはわかりません」 彼女にはわからない、それはつまり上位者の命令で彼女が動いているという事。 涼宮ハルヒの観察を行う彼女は、各思念体の直属。……ありえない、やはりこれが穏健 派の取る様な行動だとは思えない。 やがて、私に向き直った彼女は真剣な顔で聞いてきた。 「長門さん。今からでも遅くありません、彼等を説得してここから出て行ってはもらえま せんか?」 その質問に私は頷いて、付け加えた。 涼宮ハルヒと一緒になら。 「それは……できません」 彼女の顔が苦しそうに歪む。 では、私も貴女の要望には答えられない。 「……困りましたね。ですが、貴女がここに残ってくれてよかったと思っています」 何故。 私は5人の中で最も戦力にならない。足止めをするのが目的だったのなら、これは最悪 の結果のはず。 「この先には数人の戦闘要員と、機関の使い手が2人居ます。……今は人間になったとは いえ、かつての同僚が危険に晒されるのはあまり気持ちのいい事ではありません」 いけない。 急いで追いかけようと走り出した途端、長門の体を不可視の何かが縛り付けた。 かつての自分なら容易くできた事、情報操作による行動停止を前に今はそれを知覚する 事も抵抗する事もできない。 動けなくなった私の前に立って、彼女は諭すように言った。 「ここでじっとしていて下さい。それに、彼らが万一機関の使い手から逃れる事ができた としても、森園生の力によって涼宮さんには近づけません。何をしても無駄なんです」 ……だったら。 私は自分の体で唯一自由だった視線を動かし、彼女の顔を睨んで言った。 だったら、ここで貴女を倒してみんなを助ける。 ―― デジャブ……ってやつか? ―― 俺が部室棟に入った時、すでに古泉が階段を登る足音は聞こえなかった。 それは古泉がすでにハルヒの元に辿り着いたって事なのか、それとも……。 真っ暗な階段の先を何とか見据えようと目を細めるが、そこには何も見えない。 ええい、どっちにしろ行くしかないだろうが! 頭を過る暗い考えを跳ね除けようと、俺はわざと大きな音を立てて階段を上り始めた。 ――その違和感に気がついたのは、階段を上り始めてすぐの事だった。 前方に見えているはずの階段の踊り場は、俺がどんなに階段を登っても一向に近づいて いる気配が無い。 何が起きてるんだ? 一旦立ち止まり振り返ってみると、そこには遥か遠くまで下っていく階段の姿があるだ けだった。 くそっ! 罠かよ? ただの一般人相手に手の込んだ事をしてくれやがって! あっさ り罠にかかった自分にも腹が立つが……そうだ! 古泉! どこだ! そう叫んだ俺の声は、目の前にある暗闇に吸い込まれて返って来る言葉はなかった。 駄目か。どうする、このまま登るか? それとも一旦戻るか? そう俺が考え込んでいると、 「あ、あれ? どうして貴方が?」 背後から聞こえてきた間抜けな声に振り向くと、そこ居たのは先に行ったはずの古泉だ った。 お前、先に行ったんじゃ? 「貴方こそ……待ってください、貴方は確かに僕より後にこの階段へ足を踏み入れた。そ うですね?」 ああ、間違いない。 旧校舎の入口から階段まではすぐだからな。 「という事は、この階段は恐らく階段の途中と踊り場付近の辺りで空間が繋がっているの だと思われます」 ……古泉、頭大丈夫か? 空間が繋がるとかどこのファンタジー世界だ、ここは現実だぞ? 「僕はいつでも」 そこそこに正気なつもり、だろ? そんな事はどうでもいい。理屈なんて好きにしろよ。 で、どうすればハルヒの所へ行けるんだ? 「このまま貴方は階段を上ってください。僕は逆に階段を降ります」 それで? 「僕の推測が正しければ、僕と貴方はいずれまた階段で出会う事になります。そこから空 間の途切れ目を辿れば、この階段から抜け出せるはずです」 ……さっぱり意味がわからんが、まあいい。信じてやるよ。 俺は古泉に頷いて見せ、終わらない階段を再び上りだした ――なるほど、流石は超能力者って奴だな。 数分後、俺が見たのは階段の先で俺を待つ古泉の姿だった。 「これで確証が持てました。この付近に空間を連結している次元断層があるはずです」 もう理解しようとするのは諦めた。 そこからなら出られるって事か? 「ええ。ですがここから出た先が現実の世界だとは限りません、行き先がここよりももっ と危険な場所ではないという保障は1つもないんです」 だからどうした。 安全確認でもしたつもりか? 「……いえ。そうですね、貴方のその言葉が聞きたかったのかもしれません。こう見えて、 僕は臆病なんですよ」 そう言った古泉は何故か嬉しそうに笑った。 ……お前が笑う所、久しぶりに見た気がするな。 差し出された古泉の手を掴み、目を閉じる。そして階段を数段上った所で、 「もういいですよ」 古泉の言葉に目を開いた時、そこは階段の踊り場だった……が。 これは……閉鎖空間か? 「どうやらその様ですね」 月明かりが差し込んでいるだけで真っ暗に近かったはずの階段は、今は灰色の光のよう な物に包まれていた。 まさかまたお前と閉鎖空間に来る事になるとはな……とはいえここなら古泉以外の人間 は入ってこれないはずだ。さっきの黒服みたいなのが襲ってこれないだけまだいいのかも しれない。 「涼宮さんの反応はすぐ近くです。急ぎましょう!」 ああ。 俺は古泉に続いて、階段を駆け上って行った。 灰色の部室棟の中には当たり前だが誰の姿も無く、廊下を走っている間も誰にも会うこ とは無かった。……ん? おい、古泉。 「なんですか?」 新川さんの話じゃ、ここに森さんが居るはずじゃなかったのか? 俺の言葉に、また古泉の顔色がまた悪くなる。 「部室棟に居る事は確かだと思います。ですが、この空間の中に僕以外の能力者の気配は ありませんから、彼女はここには居ないはずです。彼女の事は、ここから出る時にだけ注 意すればいいでしょう」 そう言い切っているのに、古泉の言葉には自信がまるで感じられなかった。 あの森さんはそんなに怖い人なんだろうか? ……俺にはそうは見えないんだが。 そんな事を話している間に、俺達はSOS団の部室の前に辿り着いた。 ここか? 「ええ」 緊張した顔の古泉の手がドアノブに伸び、俺が頷くのを見た後、古泉はドアノブをゆっ くりと回した。 不思議な程無音で、ドアは開いていく。 そこで俺達が見たのは、部室の中でいつもの様に団長席に座って眠っているハルヒの姿 と……何となく、そんな気はしてたよ。 「お待ちしておりました」 そんなハルヒの隣に立つ、見慣れたメイド服に身を包んだ森さんの姿だった。 「な、なんで……貴女が……」 絶望って言葉がこれ以上ない程似合う顔で古泉は呟く。 おい古泉しっかりしろ! 挨拶だけで戦意喪失すんな! ……駄目か。 えっと、森さん。 「はい」 硬直して動けない古泉に代わって、俺は口を開いた。 細かい事情とかはいいんで、そこのバカを返してもらえませんか? 俺は「バカ」という部分だけわざと大きな声で言ってみたんだが……くそっ気絶してる のか知らないが、ハルヒは何の反応も示さない。 「申し訳ありませんが、それはできません」 あくまで丁寧な物腰で――つまり、欠片も譲歩する気が感じられない言葉で森さんは言 い切る。 ……だったら、どうすればハルヒを返してもらえるんですか? 森さんの事だ、どうせ返答は無い。そう俺は思っていたんだが。 「このまま1時間程お待ちいただければ、涼宮さんの自由をお約束します」 意外にも森さんはそう提案してきた。 なんだよ、古泉の反応だけで想像していたよりもずっと話が分かる人じゃないか。 じゃあ、その数時間で何をするつもりなのか教えてもらえませんか? そう尋ねた俺に森さんは小さく頷いた後―― 「世界を再構成します」 ……これ、笑う所? 窓から差し込んでいる灰色の光に照らされた森さんの言葉には、いつか聞いたあいつの 言葉と同じように何の迷いも感じられなかった。 そんな時――お、おいマジかよ!?――まるで出番を待っていたかのようなタイミング で、部室の窓の向こうに青白い巨体、神人が姿を現しやがった! やばい、ここに居たら巻き込まれ……ん? 神人は何故かこの部室には興味がないらしく、本校舎や街のあちこちで好き放題大暴れ している。 おい古泉! 俺には詳しい事はわからんがあれが暴れてたらまずいんだろ? さっさと 行けっ! 「で、ですが!」 あのなぁ、ここが何とかなっても世界が崩壊したら一緒だろうが! 古泉もそれはわかっているのだろうが、どうやら森さんを前に俺1人残す事を躊躇って いるようだ。 この人は俺に任せろ、何とかしてみせる。 「貴方は森さんの事を知らないからそう言えるんです。さっきお会いした新川さんですが、 あの人はああ見えて世界でも有数の傭兵なんです。これまでにも何度もテロや戦争を未然 に防いできた本物の英雄であるあの人ですら、森さんには手も足も出ないんですよ?」 ……必死に熱弁する古泉には悪いが、お前の説明と目の前に居る森さんはどうしても一 致しないんだが。 アンティークなメイド服に身を包んだ森さんは、それこそ長門とそれ程変わらないので はと思うほど華奢な体をしている。 「見た目で判断してはいけません」 とにかくだ、森さんがそれだけ凄いとするさ。 「ですから本当に!」 いいから聞け! そんな凄い森さん相手にお前は対抗できるのか? できないから脅え てるんだろ? それだったらお前は神人を止めに行った方がまだ助かる可能性があるとは 思わないか? 奇跡を待つより何とやらっていうしな。 これが絶望的な状況なら最善手を打つしかないだろうが? 「それは……そうですね」 まったく、冷静なのはお前の役割だったはずなんだがな。 納得してからの古泉の行動は早かった。 「すみません、涼宮さんをお願いします!」 そういい残して廊下に飛び出していく古泉の体からは、いつか見た赤い光に包まれ始め ていた。 頼むぜ古泉、俺達の世界を守ってくれよ? 「……」 そして問題はこっちか。 部屋から古泉が出て行く時も、森さんは何の邪魔もしなかった。 それは余裕からの行動なのか……それともまた何か罠でも仕掛けているのだろうかね。 とにかく、まずはハルヒの状況を確認しないとな。 ハルヒに向かってゆっくりと歩く俺の姿を、森さんは静かに見守ってい……あれ、普通 に辿り着いてしまったぞ。 俺がハルヒのすぐ隣に立っても、森さんは何もしてこなかった。 ただ、俺の様子を見ているだけ。 いったいなんなんだ? ともかくこいつを起こしてみよう、そう思った俺はハルヒの肩に触れようとしたんだが ……なんだ、これ? ハルヒの体からすぐの場所に何か見えない壁があって、それは全身 を覆っているらしく俺の手はハルヒに届く事は無かった。 おい! ハルヒ起きろ! 揺さぶろうにもその壁は動かず、俺の声もハルヒには届いていないらしい。 この壁はいったいなんなんだ……まさかこれも森さんがやった事なのか? 「……」 俺を見る森さんの視線には感情らしきものは見当たらず、その姿はまるでかつての長門 を見ているようだった。 森さん。 「はい」 世界を再構成って、どんな意味なんですか? まあ、聞いたからって素直に答えてもらえるとは思っていなかったんだが、 「閉鎖空間の内面世界を神人によって崩壊させ、その場所に彼女の意識によって新たな世 界を創造します」 意外にもあっさりと返事が返ってきた――意味はさっぱりだけどな。 それって、結局どうなるんですか? 「新たな世界は彼女の望んだ世界になります」 ……それって、もしかしてどうなるのかわからないって事なんじゃ。 「はい」 おい、本気なのかよこの人! 古泉が言うのとは別の意味で怖いんだが? ハルヒの思い通りの世界なんて本気で洒落にならんぞ? それって止めてもらう訳にはいかないんですか? 「できません」 どうして? いったい誰がそんな世界を望んでるって言うんですか? 「この世界に生きる全ての生物です」 ……は? 今、何て言いました? 「この世界は今、とても不安定な状態にあります。たった一人の少女によって崩壊する可 能性を常に秘めている。一度判断を間違えれば、何も知らないままの数十億もの命を失う 事にもなり兼ねない」 淡々と呟くその言葉には、何の感情も感じられなかった。 ……世界が再構成されたら、貴女の言う何も知らないままの数十億もの命ってのはどう なるのか分かってるんですか? 「はい」 森さんはハルヒの隣にあるパソコンを指差すと、 「今、私たちが居るこの閉鎖空間は現実の世界をコピーした物です。パソコンに例えて説 明すると、この空間は現在神人によって基礎部分を残してフォーマットされています、そ れが終われば彼女の認識によって世界が再構築されていきます。構築が完了すれば、コピ ーの元になった世界は消えます」 消えますって……死んでしまうって事なんじゃ? 「そうとも言えます。ですが代わりに、新しい世界にはこの世界に現存する全ての命が生 まれる事にもなります。それは全く同じものではありませんが、現在存在する物とほぼ同 じ物になります」 ちょっと待てよ、それって……あの時の。 森さん! 貴女が今言ってることは、以前古泉や長門や朝比奈さんが止めようとした事 じゃないんですか? ハルヒが世界の再構成を始めたあの日、確かに俺は古泉の言葉を聞いたんだ。 まだ俺たちと一緒に居たい、できるならば戻って来て欲しいってな。 「古泉が?」 そうです、あいつは仲間の力を借りてなんとかここまで……来れた……って。 それまで穏やかだった森さんの顔に、急に浮かんだ表情。それは紛れも無く 「……勝手な事を」 怒りだった。 目の前に居るのは長門と変わらない様な華奢な女性だ、それは間違いないのになんで俺 はこんなに震えてるんだ? 「なるほど。一度は再構成寸前まで進んでいたプロセスが急に白紙に戻った事がありまし たが、あれには古泉も加担していたんですね」 俺は今まで、なんだかんだで機関ってのは敵じゃないんだと思っていた。そしてそれは、 今でも間違いじゃないんだろうな。 つまり、この人たちにとって俺達は敵じゃないが……味方でもないんだ。 森さんはポケットから銀色の懐中時計を取り出すと、蓋を開けて中を見つめている。 「残り約32分で神人の活動は完了します」 そんなもん、古泉が何とかするさ。 そう強がった俺に、森さんは首を横に振る。 「神人の数と行動範囲を考えると、古泉の能力では作業完了を遅らせる事しかできません。 それも長く見積もって3分といった所でしょう」 ……こうなったら、無理やりにでも止めるしかない。 いくら森さんが凄い人だろうが知った事か! 俺は手近なパイプ椅子を1つ畳んで両手 で持ち上げた。 頼む、再構成とやらを止めてくれ。……こんな事はしたくないんだ! パイプ椅子を持った俺がそう叫んでも、森さんには何の変化も無い。 抵抗も、避けようともしない森さんに……俺は、俺は………………くっそお!! 振りかぶったパイプ椅子を、俺は足元の床に向かって叩きつけた。 衝撃に耐え切れなかった椅子の部品がいくつも散らばり、その破片の様子を森さんは眺 めている。 どうすりゃいいんだ……このまま何もできずに見てろってのか? おい起きろハルヒ! 俺は立ち上がり、団長椅子で眠り続けているハルヒを揺さぶろうと手を伸ばした。その 手はやはり見えない壁に阻まれてハルヒの体に触れることは出来なかったが……そんな事 はどうでもいいんだ! さっさと起きろ! お前の団員がピンチで世界は滅亡の危機なんだ! こんな時の為の SOS団だろ! 違うか? ついでに教えてやるがお前が中学の時に見たジョン・スミス は俺だ! あの時お前が地面に書いた文字は宇宙人語で『私はここにいる』だろ? なあ、 起きろよ! 頼むから起きてくれよ! どんなに俺が叫んでもただ喉が掠れるだけで……俺にはハルヒの前髪1つ揺らす事はで きなかった。 ……俺の切り札まで無効とは恐れ入ったよ。 声が届かないんじゃ何を言っても無駄だよな。 もう俺達にできる事は何も……な…………俺……達……? 俺のカマドウマ以下の頭脳に、その言葉はやけに大きく響いた。 ハルヒはここで寝ている。 古泉はバイトで大忙し。 俺はここで嘆いていて……それで終わりじゃない、SOS団はまだ居るじゃないか! まだ長門も朝比奈さんも鶴谷さんも居るんだ、みんなが揃えばもしかしたら……。 古泉が居ない今、ここにみんなを呼ぶ為には……手は一つしかない。 森さん。 「はい」 頼むぜ。あんたのその静かな態度は余裕の表れであってくれよ? 祈るような気持ちで、俺は賭けに出た。 外に居るみんなをここに呼んでもらえませんか。 「……」 これが最後なら、せめて一緒に居たいんです。 この言葉は嘘じゃない、だがこれで最後にするつもりなんか欠片もない。 俺達の間に流れる沈黙は、やがて彼女の小さな手振りによって終わった。 森さんの右手が部室の窓へと向けられると、古ぼけた部室の窓はまるで魔法がかかった かのように変化してそれぞれに映像を映し出したのだ。 窓の1つでは青白い神人の群れを相手に奮戦する古泉が映り、他の窓では新川さん相手 に格闘を繰り広げている鶴谷さんの姿が見える。長門は何故か喜緑さんの目の前でじっと 動かないままで、朝比奈さんは校舎の中で震えていた。 ……こ、これは。 「現在の状況です」 森さんの言っている意味はなんとなくわかるが……その前に、この人はいったい何者な んだ? いくら森さんが凄い人だからって、これはもう超能力なんて言葉では説明できない。こ んな無茶苦茶な事ができる奴って言ったら、俺には宇宙人くらいしか思いつかないぞ? 森さんの素性を想像して冷や汗を流す俺に、森さんは丁寧に頭を下げる。 「こちらとしましては貴方以外の人にこの場所へ来て頂く訳には参りません。申し訳あり ませんが、この映像だけでご容赦願います」 ……妙に丁寧な言い方だが、これは裏を返せばヒントになるかもしれない。 つまり今のは、森さんにとってここに来てしまったら困る事になる奴が俺達の中に居る って事だよな? それは……可能性として一番高いのは鶴谷さんだろうか。 部室の窓の中で、鶴谷さんは新川さん相手に俺では目で追うこともできない程の速さで 戦っている。 くそっ、もしもそうだとしてもここに古泉が居なかったら鶴谷さんを連れてこれないじ ゃないか! どうりでさっき、あっさりと古泉を見逃した訳だ。 古泉が映る窓では、逃げ惑いながらも反撃を繰り返す赤い光が見える。 携帯電話は……圏外か、そうだよな。閉鎖空間まで電波が来てたら逆に驚く。 古泉に連絡を取ることができないとなると、くそ! どうすればいい? 焦る俺が窓に映る映像にじっと目を凝らしていると、その内の1つに違和感を感じた。 それは長門が映っている映像で、喜緑さんと一緒にじっと立ったまま二人は動かないで いる。 あれ、何か変だと思ったんだが……。 他の映像と違ってここだけ静止画に見えるその映像を見ていた俺は、ようやくその違和 感の正体に気がついた。 さっきまで見詰め合っていたはずの2人のうち、長門だけが視線が変わっているのだ。 長門の視線は、まるでモニター越しに俺を見つめているかの様に固定されている。 何だ……何か口が動いている様な気が……。 ……い……ま……た……す……け……に……い……く……? その瞬間、部室の窓の全てが白く光ったかと思うと、みんなの様子を写していた窓ガラ スはまるで念入りにハンマーで砕いたみたいに空中で飛散して、そのまま霧の様に消えて いった。 何が起きたのか何て事はわからないが……まあいいさ、俺が信じてないで誰が信じてや るんだよ。 こんな状況でも顔色1つ変えない森さんの横を通って、俺はいつもの自分の席へと戻っ た。 なあに、その静かな顔ももうすぐ驚きに変わるだろうぜ? 数分後――俺が聞いたのは、廊下から聞こえてきた誰かが走ってくる足音。その音はま っすぐこちらに向かってきて、そして躊躇なく扉は開かれた。 「ハールにゃんどこさー? っと居たぁ! おおお! キョン君も居るじゃないか!」 最初に入ってきたのは鶴屋さんだった。 「涼宮さん! キョン君!」 元気一杯の鶴屋さんに手を引かれて、我らが天使の朝比奈さんも登場だ。 「……」 そして最後に……ありがとうな、お前が何かしてくれたんだろ? 無言のまま頷いてみせる長門の姿もそこにあった。 これで形勢は逆転だな。他力本願? ああ、好きに言ってくれ。俺はハルヒが助けられ ればそんなもんはどうでもいい。 「ちょっとキョン君、どうしてハルにゃんを連れ戻さないのかい?」 そうしたいんですが……事情はうまく説明できませんが、とにかくそこに居る森さんを なんとかしないとハルヒを助けられないんです。 「おっけー。話はさっぱりだけど、やらなきゃいけないことはよ~くわかったよ」 部屋の中に見慣れない顔を見つけた鶴屋さんは一歩前に出た。 「あんたが森さん? ハルにゃんを誘拐したくなる気持ちは正直わかるんだけど、これは ちょろっとお痛がすぎてるっさ!」 わかるんですか。 「あの、お願いします。涼宮さんを解放してください」 「私からもお願いする」 3人の言葉を聞いても、森さんは顔色1つ変えないでいる――本当にこの人は何者なん だろうか? 自分を取り囲むように立つ俺達を見て、森さんは小さく溜息をついてから……。 「それはできません」 はっきりと否定するのだった。 「ふ~ん、口で言っても分からないなら体に言い聞かせちゃうよ? そっちの方が趣味だ しね! 言っておくけど今日のあたしは凶暴なんだから手加減できないっから!」 さっきまでの勢いが残っているのか、鶴屋さんは威嚇するように構えて見せる。 俺ならすぐに引き下がりそうな本気の視線を前に――それでも、森さんには何の変化も 無かった。 じりじりと距離を詰める鶴屋さんを、森さんは視線の端でそっと見つめている。 鶴屋さん気をつけてくださいね? 見た目じゃわからないですけど、森さんは新川さん よりも凄い人らしいんです。 「うん、聞いてるよ。それが本当かどうかを確かめる意味でも、是非お手合わせしてもら わないっとねぇ」 いかん、余計に火をつけちまったのか? 傍目にも分かるほどテンションを上げた鶴屋さんは――まるでそこだけコマが少ない映 画をみたいに一瞬で森さんに蹴りかかっていた。 といっても俺には結果しか見えていないんだが、即頭部を狙ったらしいその蹴りは、ま るで必要な分だけ動いたみたいな森さんの動作で回避されて空を切る。 「――!」 完全に捕らえたと思っていたのか、鶴屋さんの顔に動揺が走った。 それでも―― 「せいりゃー!」 駒の様に体を回し、鶴屋さんは矢継ぎ早に蹴りを放っていった。 いったいどんなバランス感覚をしているんだ? 軸足を床につけたまま、森さんの膝や腹部、胸や顔へと繰り出された蹴りの雨は、彼女 の服を揺らすだけで一撃も体に触れることは無かった。 援護に入りたい所だが……正直、俺では邪魔にしかならないだろう。 じっと2人の攻防を見守っていると、やがて鶴屋さんの動きに変化が現れてきた。 相手に反撃される事を考えて攻撃していたのでは、森さんを捕らえる事はできない。 そう考えたのだろうか、鶴屋さんは一気に森さんとの距離を詰めていった。 満員電車の中の様に向かい合った状態で、鶴屋さんの肘や膝が乱れ舞う。どう考えて も避けられるはずがないはずなのに…… 「な、なんでさー?!」 鶴屋さんの攻撃は、それでも空を切るのだった。 反撃覚悟、組み付こうと腕を伸ばしても森さんはその動きが分かっていたみたいに容易 く背後に回ってみせる。 急いで振り向こう鶴屋さんが体を捻ると、 「おおわっ!」 急にバランスを崩した鶴屋さんは、その場に倒れてしまった。 鶴屋さん! 「痛てて……い痛っ! な、なんなのこれっ?」 起き上がろうとした鶴屋さんが再び倒れたのも無理は無い、倒れた鶴屋さんの手足は、 いつの間にか彼女自身の長い髪で縛られてしまっていた。 いくらなんでもこんな一瞬で人の手足を縛るなんて不可能だ。しかも相手は鶴屋さんな んだぞ? 「つ、鶴屋さん」 「みくる! その辺に鋏ない? 鋏!」 「そ、そんなの駄目ですよ?!」 「いいから鋏ぃ~!」 じたじたと暴れる鶴屋さんの前に立ったのは。 「……」 いつの間にか俺の傍から離れていた長門だった。 「だめ! 長門っち危ないよ!」 「大丈夫」 鶴屋さんに頷いて見せてから、長門は森さんへと向き直る。 まるで鶴屋さんを守る様に立つその姿は、かつて俺を守ってくれた時の様に見えた。 「涼宮ハルヒを連れて帰る」 そう言い切る長門を前に、 「申し訳ありませんが、それはできません」 森さんは一歩も引こうとしない。 俺は、これから長門がいったい何をするつもりなのか全く知らなかった。それはまあい つもの事だし、正直聞いた所で俺に出来る事などないのも知っている。 それでも、この時ばかりは思ったぜ。 頼む、先に言ってからにしてくれってな。 長門は静かに自分の胸に手を当てて、その言葉を呟いたんだ。 「来て」 その瞬間、さっき俺がモニター越しに見た光が狭い部室を埋め尽くした。 強い光を放つ長門の背中から突き出すように伸びた二本の光の柱。 それはやがて翼の様に形を変えて、長門の体を包み込んでいく……。 眩い光の中で、俺達は確かに見てしまったんだ。 光の中央に突如現れ、長門の小さな背中を愛しそうに抱いて立っている……あいつの 姿をな。 「お久しぶり」 長門を抱きしめたまま、そいつは俺に向かっていつか見た笑顔を向けている。 こんな状況に欠片も似つかわない軽い口調で挨拶してきたのは――まさかお前にまた 会う事になるとはね――消えてしまったはずのクラス委員、朝倉涼子だった。 ……朝倉、お前天使だったのか? そう俺が聞いたのも無理もないだろ。 長門の背中にあったと思った光の翼は、今は朝倉の背に移り静かに揺れている。 「さあ? それはどうかしら」 茶化すように朝倉ははぐらかしたが、何故か俺をじっと見つめて視線を外そうとしな い。 何だろう。 その視線は久しぶりに見たクラスメイトって感じではなく、更に言えば殺し損ねた殺 害対象を見ている様にも見えない。 始めて見るはずの朝倉のそんな顔を……何故だろう、俺は懐かしく感じていたんだ。 どこだったかは思い出せないが、俺はどこでこの目を見た事があるような……。 「さっさと終わらせちゃうね。さ、長門さんは危ないから離れてて」 頷いた長門が俺の隣に戻ったのを見て、朝倉は小さくウインクしてから森さんへと向 き直った。 「な、ななな。何なんですか、あの人?」 「キョン君! キョン君! あれって天使なのかい?」 さ、さあ。俺には正直さっぱりです。 朝比奈さんはいいとして、鶴屋さんに朝倉を見られてしまったのはまずかったかもし れないが……まあ、今は緊急事態だから仕方ないよな。 長門、あれは本当に朝倉なのか? 俺の質問に長門は頷く。 「彼女は味方」 ……そっか。 疑うまでも無い、朝倉を見る長門の視線には確かな信頼が篭められていたんだからな。 世界崩壊の危機とやらが迫っているはずなのに、俺が安心しきっていたのも当然だろ? なんせ、ここには本物の宇宙人が居るんだ。 いくら森さんが格闘技の達人だろうが、不思議な力が使えようが関係ない。人間が宇 宙人に勝てるわけがない。 「はじめまして。貴女には何の恨みも興味も無いんだけど、長門さんのお願いだからち ょっと怖い思いをしてもらうね?」 言い終えるまでもない、気がつけば俺達の回りにあった机や椅子は姿を消していて、 まるで森さんの視界を塞ぐ様に数え切れない程の光の槍が取り囲んでいた。 い、いつの間にやったんだ? 突如として現れた鋭利な刃物によって、ここからではもう森さんの表情を見る事すら できない。 「逃げようとしても無駄、もう動きも封じたから。ちゃんと勉強したのよ?」 そこで俺を見なくてもいい。 「は~い。さ、森さんだっけ? 涼宮さんを解放してこの閉鎖空間を消しなさい。お返 事はもちろん「はい」よね?」 そう笑顔で言い切る朝倉を前にしても、森さんは 「それはできません」 はっきりと言い返しやがったようだ。 お、おい! マジで危ないんだって! 一度殺されかけた俺にはわかる、朝倉は笑ってるからって安心できる相手なんかじゃ ないんだ! 「ふ~ん……そう」 朝倉の笑顔に何かが混ざった気が――瞬間、森さんの足元に数本の光の槍が突き刺さ っていた。 ほんの僅か、森さんの足元から数センチ離れた場所に槍は深々と突き刺さっている。 「次は当てるわよ。返事ができる内に「はい」って言った方が貴女の為だと思うなぁ」 嬉しそうに笑う朝倉を見て、森さんはそっと腕を横に振った。 「え?」 その動きを見た朝倉の顔から笑顔が消える。 同時に、森さんを取り囲んでいた光の槍も、朝倉の背中に輝いていた光の翼も全て姿 を消してしまっていた。 光の翼が消えて急に暗くなった部室の中、 「いけない」 よろめく朝倉の体を、走り寄った長門がそっと支える。 「……あ、貴女いったい何者なの?」 朝倉にそう聞かれても森さんは何も答えようとせず、ただ静かに懐中時計を取り出し 「残り13分です」 まるで時報の様に、俺達に告げるのだった。 「キョ、キョン君! 残り13分って何が起こるのさ?」 床に転がったままで聞いてくる鶴屋さんに、俺は現状を何て答えればいいのか分から なかったし、どう説明すればいいかなんて考えている余裕もなかった。 いざとなったらハルヒにキスをすればいいって事あるごとに言われてきたが、それす ら今はできないぞ? ……もう駄目なのか? ごく普通の人間である俺ですら世界の崩壊を意識しはじめた時、そいつはやってきた。 ――正義の味方は遅れてやってくるもの。 「わぁ? 今度は何なのさ!」 そんなルールを守っているのかどうかは知らないが……遅えよ、馬鹿。 前触れもなくがら空きになった窓枠から飛び込んできた大きな赤い光は――お、おい? その光は俺達の元ではなく、迷う事なくまっすぐ森さんへと向かって飛んでいったの だ。 いくらなんでもこんな物は避けられない。 そう信じるに足るだけの勢いで飛んできた古泉は、森さんの体を確かに捉え―― 「ふっ」 ……小さな息と共に振り上げられた森さんの右手の一振りで、あっけなく跳ね飛ばさ れちまいやがったのだった。 大きな音を立てて壁にめり込んだ古泉が、ゆっくりと落ちてくる。 「きゃあ!」 古泉! 思わず駆け寄った俺を見て、古泉は弱々しく笑顔を浮かべて見せ……そのまま意識を 失って倒れてしまった。 古泉! おい古泉! 起きろ! 目を覚ましやがれ! ぞっとする程ぐったりとしている古泉の傍に、朝倉がやってきた。 動かない古泉に手をかざして、朝倉は真剣な顔をしている。 「大丈夫、気絶してるだけ。命に別状はないわ」 よ、よかった……。 ったく心配させやがって! 朝倉、古泉を起こせるか? 「うん。それくらいなら」 じゃあやってくれ! 「は~い。任せて」 目を閉じた朝倉の掌に小さな光が生まれ、その光は古泉の体へと進んでいく。 やがて、弱々しかったその光が完全に古泉の体に消え去ると、 「…………こ、ここは?」 入れ替わるように古泉は目を覚ました。 やれやれ……ったく心配させやがって、あれだけ森さんには歯が立たないって言って た癖に何で無茶したんだ? 「す、すみません。……ですが、この世界はすでに臨界状態を迎えています、残された 時間はもう殆どないでしょう」 ……だから賭けに出たってのか? 「ええ。ですが、やはり僕では彼女を止めることはできないんですね……」 ゆっくりと立ち上がった古泉の視線の先では、この部屋に来た時に俺が見た姿とまる で変わっていない森さんの姿がある。 誰も口を開けないでいる中、森さんは懐中時計をしまって口を開く。 「間もなく、世界の再構築が始まります」 森さんがそう言い終えるのを待っていたように、部室棟は小さく揺れ始めるのだった。 ――俺は心のどこかでこう思ってたんだ。 例えどんな非常識な事が起きたって、SOS団が揃えば何とかなるってな。 事実、これまで何度も俺達は無茶な出来事に巻き込まれてきたが、結果的になんとな かってきたんだ。今回は例外だ……なんて思いもよらなかったぜ。 ここで奇跡を願おうにも、ハルヒが寝てるんじゃどうしようもない……。 「……森さん、最後に1つ聞かせてください」 落ち込む俺を前に、古泉は決死の表情で森さんへ問いかけている。 「今から起きる再構築は、本当に涼宮さんが望んでいる事なんですか? 確かに、ここ 最近の涼宮さんはいつもと違っていました、不機嫌に見えるのに当り散らしてきません でしたしね。しかし、それと突然起きた今回の騒動に繋がる理由が僕にはわからないん です。以前、彼女が世界を作り変えようとした時とは状況が違います。彼女は現状に絶 望などしてはいなかった。それなのに何故?」 ハルヒじゃない。 「え?」 これはハルヒが望んでる事じゃないって言ったんだよ。 熱弁する古泉に反論したのは、何故か俺だった訳だ。 「それは……いったい」 理由なんて知らん。でもな、これだけは言い切れる。あのバカは世界の再構成なんて くだらない事を本気で望んだりしちゃいねぇよ。 「ですが、実際にあの時……」 前の事か? あの時だってそうだろ。あいつが本気で望んでたんなら、みんなが俺に ヒントを出したりできると思うか? そんな理屈は抜きにしても、俺はハルヒがそんな 事を望んでるなんて思えん。 言いたい事を勝手に言っただけの俺に反論、というか質問してきたのは 「1つ聞かせてください」 何故か森さんで、 「貴方は、世界を再構成したいと思った事はありませんか」 その内容は意味不明だった。 ……何を言ってるんですか? 月曜の朝に、実は今日は日曜だったらいいのにって思ったことならいくらでもあると か――そんな話じゃないよな、多分。 「もしも貴方に、世界を自分が思うとおりに書き換えられる力があったなら。その力を 使わないで居られる自信がありますか」 使うはずが無いでしょう? そんな事をして何になるんですか。 「いえ、貴方は書き換えました」 静かに首を振って、森さんはそう否定する。 いったい何の事を言って……。 「過去に世界が改変された時、貴方はエンターキーを押したでしょう」 静かなその声は、俺の中に静かに広がっていくようだった。 ――何で……何で森さんがそんな事を? 「あの世界は、貴方の選択によって時空修正されました」 事情が分からないみんなの視線を感じながら……俺は立っているだけの気力もなくな り、その場に座り込んでしまった。 ――長門によって書き換えられた世界を元に戻す為、長門にピストル型装置を構えた 時、俺は俺のハルヒと古泉と長門と朝比奈さんを取り戻す。そう決めたんだ。 今でもそれは間違いだった何て思っちゃいないさ、でもその代償に俺はあいつらの未 来を奪ってしまった……のか……。 「その事について、貴方を責める事ができる人は何処にも存在しません」 見下ろすような森さんの視線は、少しだけ優しかった気がした。 「古泉の質問に答えます、彼女は世界を変えたいと思ってはいません。ですが彼女が世 界の破滅を願わない様にする為には、こうして世界を彼女の望む姿に変え続ける必要が あるんです」 淡々と諭すように語る森さんに反論したのは、 「違います!」 いつになく真剣な顔をした古泉だった。 「森さん。確かにその様な意見が機関に存在する事は知っていました。ですがそれでは、 僕達がこんな力を持っている理由が説明できないじゃないですか!」 古泉は掌に、かつてカマドウマと戦った時に見せた熱を放つ赤い光を作ってみせた。 同じように森さんも掌に光玉を作って見せ、 「古泉、これは彼女の良心だ」 「良心?」 「そうだ。今、鍵である彼が思いつめている様に、彼女もまた自分の選択が世界を改編 してしまう事に抵抗が無い訳ではない。人は、生きる為に他の生物の命を奪う時、それ が自然の摂理であると理解していても心に呵責が生まれる。無意識の内に世界を変えて しまう事に対して彼女の呵責が生み出した力、それがこの力だ」 そう言って、森さんはあっさりと光玉を握りつぶしてみせた。 閉鎖空間の存在。 そして、超能力者。 ……なるほどな。 未だ目を覚まさないハルヒの姿を見て、俺は溜息をついた。 なあハルヒ。今ならお前の気持ちが、前よりほんの少しだけだがわかってやれる気が するよ。 森さんの言葉が全部真実かどうかなんてわからんが……何故か俺はそう思った。 「そんな……」 よろける古泉にかけてやるフォローの言葉も思いつかない。 「涼宮ハルヒは閉鎖空間を作り、神人を暴れさせる。その先にある結果は二つ存在する。 1つは破滅、完全な虚無への回帰。私達が防ごうとしているのはこれだ。そしてもう1 つは再生、より安定した形に世界は再構築される。本来であれば再生は誰にも止める事 はできない……だから、お前には何も伝えていなかったんだ」 静かに続いていた振動は森さんの話が進むにつれて徐々に大きくなり、ついに天井か ら埃が落ち始めてきた。 そんな中、長門はじっと朝倉に寄り添っていて、2人は抱き合う様にしてこれから起 きる出来事を受け入れようとしているみたいだった。 古泉は壁にもたれたまま俯きっぱなし。 ……森さんの言葉が余程ショックだったんだろう、何やら独り言を繰り返している。 鶴屋さんはようやく自由になった体で、朝比奈さんの事をしっかりと抱きしめていた。 結局、巻き込むだけ巻き込んで助けてもらっておきながら、何も説明できないままに なってしまって……本当にすみません。 そして俺は、 「……」 座ったまま、ただ森さんの顔を見続けるだけだった。 この人の言っている事が勝手な欲望だとか、独りよがりな思い込みの結果だっていう のなら反論のしようもあったさ。 無駄な抵抗だってなんだってしてやるよ。 だが、森さんの言葉にはそんな私情は見つからず、俺にはもう言い返す言葉がない。 そうさ、ここが長門が書き換えた世界だったら、そもそもこんな理不尽な出来事が起 きる事もなかったんだよな。 ――静かに終わりを迎えようとしていた部室の中で、まだ諦めていない人が居た事を 俺はこの後知る事になる。 「……ま」 ――まるで囁くような小さな声。 それは古泉でもなければ長門でもない。朝倉でもなく鶴屋さんでも……眠ったままの ハルヒでもなかったんだ。 「待ってください……」 ――その声はとても小さかったけれど、とても強い決意の先にあった言葉。 いったい誰だって? みんながよーく知ってる人、いや――本物の天使様だよ。 「待ってください!」 そう叫んで朝比奈さんは鶴屋さんの腕から飛び出し、震えながら森さんの前へと詰め 寄った。 「みくる? あ、危ないっさ!」 引きとめようとする鶴屋さんを、朝比奈さんはそっと手で押し留める。 か弱い朝比奈さんの力で鶴屋さんが止められるはずは無いんだが、涙目だけど必死な 朝比奈さんの顔を見て、 「みくる……」 鶴屋さんは引きとめようと伸ばしていた手を戻した。 「……鶴屋さん、今まで本当にありがとうございました。私、鶴屋さんに会えて本当に よかったです」 「ちょちょっと! ……みくる、何を言ってるのさ……ねえ」 朝比奈さん、なんでそんなに悲しそうな顔で笑うんですか。 「みんなも本当にありがとう。……そして、涼宮さんも」 机の上で動かないハルヒに向かって、朝比奈さんはそのまま話し続ける。 「……恥ずかしい思いもいっぱいしたけど、私は涼宮さんの事が大好きです。遠くから 見てた時よりもずっと。だから……もしもまた会えたなら……遊んでくださいね?」 言葉の最後は涙で掠れてしまって俺には聞き取れなかったんだが、きっとハルヒには 聞こえていたはずだ。 理由なんて無いが、俺にはそう思えたんだ。 服の袖で涙を拭いて、朝比奈さんは森さんの顔をじっと見つめる。 そして……何かを決心した様に口を開いた。 「キョン君、時間の流れには色んな考え方があって……ごめんなさい、私の知識じゃ上 手く伝えられないんですけど……。未来は選択によって絶えず分岐を繰り返していて、 選ばなかった未来は無くなるんじゃないんです。ただ、別れてしまった世界には二度と 行けなくなるだけなんです。それは終わりと同じかもしれないけど、終わってはいない んです」 静かに語る朝比奈さんを、森さんは反論もせずじっと見つめている。 「ごめんなさい、こんな説明じゃわからないですよね。……もっといっぱい、お話しし たかったなぁ」 俺は朝比奈さんのその言葉は、もうすぐ世界が終わってしまう事を言っているんだっ て思ったんだ。 「キョン君、今から私はTPDDを強制解除して禁則事項に該当する言葉を言います」 え? じっと森さんを見つめて、俺には背を向けた状態で朝比奈さんは話し続ける。 「そうすれば……きっと、私も森さんもこの世界から居なくなると思います」 な、何を言ってるんですか。 「森さんが居なくなれば、きっと涼宮さんを起こす事ができると思うから……後の事は お願いしますね?」 朝比奈さん! いったい何をするつもりなんですか? 俺の言葉に振り向いた朝比奈さんは、口の動きだけで俺に何かを伝えていた。 朝比奈さんが伝えたかった言葉がなんだったのかわからないまま……朝比奈さんは森 さんへと向き直る。 そして―― 「森園生さん。貴女は……貴女は!「降参します」 ………………へ? その場に居た全員が――叫ぼうとして口を開けたままの朝比奈さんも含めて――が固 まっていた。 …………今、何て言いました。 聞きなおした俺に、 「降参します。涼宮ハルヒの身柄をお返しし、再構築を停止させます」 森さんは両手を挙げて……やはり無表情でそう言ったのだった。 突然の展開に誰も動けない中で、 「……朝比奈みくるを止められなかった時点でこうなる可能性がある事はわかっていま したが……まさか、本当にパラドクスを恐れないとは驚きましたよ」 溜息と共に、森さんの周囲に金色に光り輝く玉が数え切れないほどに現れ部室を照ら したかと思うと、 「わわわっ!」 「おっと!」 「きゃあ!」 光はまるで意思を持った様に一斉に飛び去っていった。 ある玉は部室の壁を貫き、またある玉は窓から空へと飛んでいき――部室の中は一瞬 金色に包まれ、その光はあっという間に消えていった。 な、何をしたんだ? 再び光を失った部室の中、誰一人状況が掴めない中で――数秒後、それまで大きくな っていっていた振動は、どんどん静かになっていった。 やがて――灰色だった空に亀裂が走り出す。 お、おい古泉! これはもしかして。 「ええ間違いありません。信じられませんが……神人が全滅し、閉鎖空間が崩壊しよう としています。余波が来ます! みなさん伏せてください!」 空に走った亀裂から光が差し込み、世界が再び大きく揺れ始める。 古泉の言葉に従ってみんながその場に伏せる中、俺は古泉がハルヒの上に覆いかぶさ る姿を見た気がした。 ……ここは……。 急に辺りが静かになって、恐る恐る顔を上げた俺の視界に入ったのは夕方、いや朝方 らしい薄暗い部室と――ようやくお目覚めか。 「……おはよう」 何故か照れ笑いを浮かべたハルヒだった。 ここは……部室か。 壁に古泉がぶつかった跡はない、机や椅子も元のまま。窓にはちゃんと古ぼけたガラ スが入っているし、そしてみんなの姿もそこにあ……あれ? 長門……朝倉はどうしたんだ? 何故か部室の中に、朝倉の姿は見つからなかった。 思わず小声で聞いた俺に、長門は寂しそうに首を横に振る。 それっきり何も言おうとしない所を見ると……まあ、何かあるんだろうな。 そして居なくなっていたのは朝倉だけでなくもう1人、ハルヒの隣には…… 「何よ」 いや、何でもない。 ハルヒの隣にずっと立っていた森さんの姿も、どこかに消えてしまっていた。 いったいこれは何だったのか……正直、色々あり過ぎてもう訳が分からないぜ。 それでも、世界は無事でこうしてみんなとまた会えたんだ。それだけで十分「ねえ、 キョン。ちょっと聞きたい事があるの」 って訳にはいかないよな。やっぱり。 いったいなんだ? 悪いが、聞かれても答えられない事だらけだぞ。 「何で部屋で寝てたあたしがここに居るの?」 知らん。 「それに、何でここにみんなが揃ってるのよ」 さあな。 ずんずん迫ってきたハルヒは、俺の前に立ち……なんだよ、その顔は。 怒っているのでも笑っているのでもない、何とも言えない顔で…… 「まあ、その辺は……知ってるからいいんだけどね」 だったら聞くなよ。 ……っておい、何で寝てたはずのお前が知ってるんだ? まさかお前、さっきまでの事を―― 「いいじゃない。そんな事」 人を混乱させるだけさせておいて、ハルヒは――ああ、お前はそんな顔で笑う奴だっ たよな――久しぶりに向日葵の様な笑顔を浮かべていた。 「そうね……せっかくみんながここに集まってるんだから大事な事を確認しておくわ」 ハルヒはそう言いながら、まずは窓際に立っていた長門の元へと歩いていった。 「最初は有希ね。1つ教えて」 「何」 「貴女にとって、あたしって何なの? 団長?」 意味不明な質問をするハルヒに長門は、 「大切な人」 観察対象とか言い出さなくて良かったが……それにしても、聞いているこっちが恥ず かしく……ってまあ、女同士だよな。 しかし、同姓だから問題無いなんて常識的な発想をハルヒに当てはめる事には無理が あったらしい。 「……そっか。じゃあキョンは?」 ハルヒの言葉で、部室の中に緊張が走ったのがわかる。 なあハルヒ、お前が何を勘違いしてるのか知らな……聞いてねぇな、これは。 真剣な顔で見つめるハルヒを前に、長門は 「大切な人」 俺に視線を向けながら、そう答えた。 「……そっか。うん、あたしもそうよ」 接近するハルヒから逃げようとしない長門の顔にハルヒの影が落ちて、 「……」 そのまま接近を続けた2人の唇は重なるのだった。 ……頼む、誰か俺に現状を説明してくれ。さっきまでの展開と落差がありすぎてつい ていけない。 「……これはびっくりだねぇ」 「す、涼宮さん」 女性陣2人が興味津々な目で見守る中、2人はようやく離れた。というかハルヒだけ が離れた。 「うん。前々からおかしいと思ってたのよね」 何かを納得するように頷きながら、ハルヒは朝比奈さんの方へと近づいていく。 ……嫌な予感がする。 ある意味、世界崩壊の危機なんかよりも、もっととんでもない事が起きてしまうよう な……そんな予感が。 「日本は一夫一婦制で重婚は犯罪って言うけど、それって所詮小さな島国の小さな考え 方だわ」 日本に居るなら日本の法律に従え。 文句があるのなら、政治家になって法律を変えるか違う国へ行けばいい。 「SOS団は、世界を大いに盛り上げるこのあたし涼宮ハルヒの団なのよ? だったら 守るべき法律はもっと世界的じゃないといけないのよ! ……つまり、同性愛は禁止な んて偏見も、当然守らなくてもいいのよね」 ここに来て自分が標的に選ばれている事に気づいたらしく、朝比奈さんが逃げ場を探 し始めた。 朝比奈さん! 早く逃げてください! 「え、あ、あ、あの。えっと?」 朝比奈さんの元へ行こうとするハルヒの前に立ちふさがったのは、 「ちょーっとまったー! ハルにゃんのその意見には賛成だけど、みくるはあたしのだ からねっ! これだけは何があっても譲れないっさ!」 森さんを相手に戦っていた時よりも遥かにテンションが高い鶴屋さんだった――それ と鶴屋さん、意見に関しては賛成なんですか。 ハルヒと言えど、上級生である鶴屋さんを相手にそこまで無茶を押し通しはしないだ ろうと思っていた俺は、 「そうね。じゃあ、半分ずつって事にしましょう」 ハルヒという存在を甘く見すぎていた。 おい半分ってなんだ? 朝比奈さんは物じゃないんだぞ? 「みくるを……ハルにゃんと半分ずつ?」 「そう。半分ずつ。あたしは鶴屋さんの事大好きだし、一緒の方が楽しそうじゃない?」 見上げる様な視線で何かを考えていた鶴屋さんは……やがて、 「そっれいいねぇ!」 もう駄目だ。 味方だったはずの鶴屋さんはあっさりと寝返り、逃げられないように朝比奈さんの体 を押さえるのだった。 「え、あの鶴屋さんどうして? あの、あ涼宮さんまで?」 「大丈夫大丈夫、怖くないから」 「さ~みくるちゃん。……あ、その前に個人の意見もちゃんと聞かないとね」 順番が逆じゃないのか? 「ねえみくるちゃん」 「はは、はい」 駄目だ、俺には朝日奈さんが肉食獣を前に脅える小動物にしか見えない。 「そんなに怖がらなくてもいいでしょ? また会えたら遊んで欲しいってさっき言って たじゃない。嬉しかったな~あれ」 「えええ?! す、涼宮さん何でそ――」 朝比奈さんの台詞が何故途中で途切れたのか? ……まあ、多分想像してる通りだろうから省略させてもらおう。 じたじたともがいていた朝比奈さんの手足が、やがて静かになった頃。 「――っぷはぁ…………ふぅふぅ……うぅ……」 ようやく開放された朝比奈さんは涙目になっていた。 「みくる~。キスする時は鼻で息をしなきゃ」 鶴屋さん、多分泣いてる理由は呼吸困難だけじゃないと思いますよ? 「さて……次は古泉君ね」 「ええ?!」 それまでいつもの様に営業スマイルで傍観していた超能力者は、その一言で面白いよ うに動揺していた。 古泉は照れ笑いと共に近寄ってくるハルヒと、何故か俺を見比べている。 ……なんだその目は。言いたい事があるのならはっきり言え。 「言えるわけないでしょう」 小声で反論する古泉だったが……そうだ、そういえば。 「ど、どうしたんですか?」 そういえばお前には貸しがあったんだよな、2つ程。 俺の言葉に、古泉は口を閉ざす。 「何よ……何男同士でひそひそ話してるわけ? ……まさかあんた達、そーゆー関係だ ったの?」 何だその詮索するような目は。ついさっき同性愛を否定しないって言ってた奴の行動 とは思えんぞ。 生憎だがそんな趣味はない。それよりハルヒ、古泉に何か話があるんじゃないのか? 「あ、そうね」 俺がその場を離れるのを見て、ハルヒは自分の携帯電話を取り出し――バキッ ……って何してやがる?! ハルヒの手の中で、携帯電話はあっさりと二つに折れ曲がっていた。 「ねえ古泉君」 壊れた携帯電話をゴミ箱に投げ入れてから、 「携帯電話が壊れちゃったわ」 ハルヒはそんな事を言い出した。 「これで……あの時の返事は、直接貴方に言うしかなくなったのよね」 何の事か知らないがそれだけの為に壊したのかよ? 「涼宮さん」 ハルヒはしばらく古泉の足元の辺りを見ていたんだが、やがて気合を入れるように顔 をあげ、古泉の顔を見つめた。 傍目にも緊張しているのがわかるハルヒよりも、その前に居る古泉の方がよっぽど緊 張している様だ。 朝比奈さんや鶴屋さん、長門までもが注目して見守る中。 「あたしね……古泉君の事、好きよ」 最後まで目を見て言い切ったハルヒの言葉に、古泉は口を開いたままで何も言えずに いた。 時折、助けを求めるように俺の顔を見る古泉に俺は――やれやれ。 俺は古泉に見えるように指を二本立てて、その内一本を曲げてから口だけで「いえ」 と言ってやった。 古泉はそれを見て苦笑いを浮かべた後…… 「僕も、涼宮さんの事が好きです」 はっきりと、そう答えたのだった。 鶴屋さんと朝比奈さんが声を出さずに歓声を上げる中 「……ありがとう」 そう言って抱きついてきたハルヒに、古泉は一方的に抱きつかれたまま両手を挙げて いた――意外に手のかかる奴だな。 俺が残ったもう一本の指を折り曲げて見せてやると、古泉は諦めたような……それで いて、至福の様な笑顔を浮かべて、ハルヒの体を抱きしめるのだった。 かくして、世界に平和が訪れたらしい。 いや~色々あったが「あんた、何勝手にまとめようとしてるのよ」 ……駄目か。 古泉から離れたハルヒは、今度は俺の前にやってきていた。 そして問答無用で俺の服を掴みっておいまて! 俺には何も聞かないのかよ? 「あたりまえでしょ? あんたの気持ちなんて知った事じゃないわ。……でも言いたい のなら言わせてあげるけど」 ……迂闊な事を言ってしまった。 「ほらほら、さっさと言いなさい。それとも何、またこうすればいいの?」 そう言いながらハルヒは髪留めゴムを取り出し、伸び始めていた髪を後頭部でまとめ あげるのだった。 ……ってまてよおい? またこうすればいいって、まさかあの時の事まで覚えているってのか? 動揺する俺の質問は完全無視。ハルヒは問い詰めるような顔で 「感想は」 ……そんなもん聞くまでもないだろ? しかしここは言ってやるべきなんだろうな。 そもそもだ。 俺は自分がポニーテールが好きなんだとずっと思っていたんだが、ハルヒに巻き込ま れてからというもの、街でポニーテールを見かけてもそれ程興味を持たなくなったんだ。 それは俺の好きな髪形ってのはポニーテールじゃなくて、お前のポ……まあいい。 やっぱり似合ってるぜ、ハルヒ。 問答無用、強引にキスしてくるハルヒの体を受け止めながら……そうだな、そろそろ 年貢の納め時かもしれん。 認めるよ。ハルヒ、俺はお前の事が―― それぞれのエピローグ その日を境に、再びハルヒは俺達と一緒に行動するようになっていた。 以前の様にハルヒは無茶をやるようになり、主に朝比奈さんと俺はそれに振り回され っぱなしの毎日だ。 「さ~みくるちゃん! 今日は巫女服に着替えましょう~」 どこからともなく仕入れてきやがった和風の衣装を手に、ハルヒは朝比奈さんを追い 掛け回している。 「す、涼宮さん……最近どんどん衣装が増えてる気がするんですけど……」 朝比奈さんの不安そうな視線の先には、すでに溢れかえりそうになっている衣装掛け がある。 ちなみに、衣装は朝比奈さんだけでなく、長門のも分も追加されていたりするぞ。 「だってスポンサーがついたんだもの。ね、鶴屋さん」 「その通りさ! みくるの巫女さん姿なんてめがっさ楽しみだねぇ~。ほらほら、巫女 服を着る時は下着も脱がないと駄目なんだよ?」 脅威が二つに増えて、朝比奈さんの苦難はより厳しいものとなっていた。 「や! 駄目! それだけは駄目! 駄目です~!」 古泉、廊下に出るぞ。 これ以上ここに居たら間違いなく逮捕されるだけでなく、それ以上の罪を犯してしま う危険すら感じる。 「了解しました」 俺は長門に終わったら呼んでくれと伝えて、廊下へと避難した。 扉を閉め、朝比奈さんの悲鳴が小さくなった所で 「1つ、聞いてもいいですか?」 遠慮がちに古泉は聞いてきた。 ああいいぞ。ちょうど俺も聞きたいことがあったしな。 前に一度、扉にもたれていたせいで朝比奈さんのあられもないお姿を偶然にも見てし まった経験がある俺は、廊下の窓側の壁にしゃがんでから古泉に喋るように促した。 「では僕から。何故……涼宮さんが僕の気持ちを確認しようとしたあの時、貴方は僕に 言えと仰ったのですか?」 そんな事言ったか? 悪いがまったく記憶にないな。 「僕は……貴方は長門さんの事を好きなのだと思っていました。ですが、涼宮さんを助 けようと必死になっている貴方を見ている内に、それは間違いだとわかったんです」 そんな簡単にわかった気になられてもな……。 まあいい。俺がお前に言えって言った理由だったな? 「ええ。恋敵にあえて塩を送るような事をした、その理由が知りたいんです」 ……お前、意外に鈍い奴だな。正直驚いてるぞ。 古泉、お前だって自分がハルヒの事を好きなのに、俺とあいつをくっつけようとして ただろうが。 自分の事を棚に上げてよく言うぜ。 「それは……ですがそれは」 機関の方針って奴か? ……ったく、そんな無駄な気を回した所で無意味だって言っ てやれ。 そう言い切る俺に、古泉は溜息で答えて……何笑ってるんだよ。 「いえ、何でもありません。それで、貴方の質問とは」 俺か? 俺が聞きたいのは、 「いいわよー!」 部室の中から聞こえたハルヒの声で、続けようとした俺の言葉は掻き消された。 俺がお前に聞きたかったのは結局、機関ってのはハルヒをどうするつもりなのかって 事だったんだが……まあいいよな。俺が詮索する事じゃない。 例え機関が敵に回ろうが何も心配する事は無い。 なんせ、俺達にはあの森さん相手に怯まなかった超能力者が居るんだからな。 話の続きを待っている古泉に、俺は部室の中へ戻ろうと首を振った。 さて、巫女姿の朝比奈さんか……いったいどんな神々しさなんだろうね? 背中についた埃を払いながら、いつもの非日常が待つ部室の扉を、俺は自分の手で開 いた。 長門に自分が宇宙人であると打ち明けられて以来、俺は様々な話をこいつから聞いて きた。 そのどれもが容易には信じられない内容で……でもまあ、結局信じる事になるのはわ かってはいたんだが……。 それでも、やはり俺の口から最初に出る言葉はこれからも同じなのだろう。 ……マジか? 「本当」 昼休みの部室、俺の目をじっと見返す長門が言うには……だ。 今、この部屋に居るのは俺と長門だけなのだが、俺を見ているのは長門だけではない んだとよ。 氷が張った湖の様に、奥底で緩やかに流れている様な長門の目。その目を通して俺を 見ているのは長門自身と――朝倉なんだと長門は言う。 「喜緑江美里は私とは違う派閥から派遣されているインターフェース。今回の様に、彼 女が敵対行動を可能性は想定されていた。人間になった私にはそれに対抗する力は無い。 その為に、私には護衛がつけられた」 それは以前、朝倉の一件があったからこその事なのかもしれんが――問題はその護衛 をしてくれる奴の人選だ。 統合思念体の考え方なんて物はわからんし、そもそもわかりたくもないんだが……よ りによってあいつを選ぶとはな。 ……つまり、その護衛ってのが朝倉なのか。 「そう。彼女は今、私の中で待機モードで存在している。彼女の情報連結は解除されて しまっている為、この世界で行動できる時間はとても短い。普段は私と五感を共有し、 私の身に危険が迫った場合に限り、彼女は私を助けてくれる」 なるほどね。 長門の説明で思い浮かんだのは、光の翼をまとって笑う懐かしい笑顔だった。 ん……って事は、今俺が喋ってる事も聞こえてるのか? 「聞こえている」 そうか。 なんとなくそう聞いただけだったんだが、長門はまるでビデオカメラでも構えている みたいに、俺の言葉を待っている。 ……といっても、別に俺はあいつに何か伝えたい事があるわけじゃないんだが……ま あいいか。 えっと、朝倉。この間は助かったよ、ありがとう。 ……まだ何か言わないといけないのか? えっと……あ、そうだ。 朝倉、多分これは俺の勘違いか何かだとは思うんだが……。お前、俺と2人でどこか に出かけた事が……あるわけないよな。すまん、忘れてくれ。 森さんの前に突然現れたお前を見た時、俺は湯煙の中で幸せそうに笑ってる朝倉の顔 を思い出した様な気がしたんだが……気のせいだな。 部室の中に予鈴が響くのを聞いて、俺はなんとなく名残惜しい気持ちに引かれながら も席を立った。 そろそろ教室に戻らないとな。 予鈴が終わりそうになっても窓際の椅子から立ち上がろうとしない長門に、俺はそう 呼びかけてみたんだが何も反応は無い。 長門、遅れるぞ? 「いい」 いいって……ああ、次の授業は教室じゃないのか。 じゃあ、また放課後な。 ゆっくりと頷く長門の視線に見送られながら、俺は部室を後にした。 ――扉が閉まって静寂を取り戻した部室の中で 『ありがとう、お話させてくれて』 私にしか聞こえない彼女の声が音も無く響いている。 いい。感謝しているのは私。貴女のおかげで彼を守れた。 『ん~……かっこよく登場したのに、あっさり森さんに負けちゃったから素直に喜べな いけどね』 それは仕方ない。 『ねえ、あの人ってただの人間なの?』 そう。 それは間違いない。 『それって本当? 情報操作に抵抗したり、神人を瞬時に消し去ったり……。あの未来 人の女の子が言おうとしてた事と関係があるの?』 ある。でも言えない。 『え~? 気になるなぁ』 私にも疑問がある。 『え?』 貴女の事を、彼に説明させないのは何故。 『何故って……。だって、キョン君はあの時の事はもう覚えていないもの』 貴女にはある。 『……そんな事を言って困らせないで、やっと気持ちの整理ができたんだから……。そ れより貴女こそいいの? せっかくキョン君を独占するチャンスだったのに』 いい。 『無理してない?』 していない。 『……それならいいんだけど。私は、キョン君は涼宮さんよりも貴女が好きなんだって 思うんだけどなぁ……いつも面倒みてくれてるし』 彼が私の事を大切にしてくれているのは、私が人間の生活に慣れていないから。 『え?』 彼は優しい。とても。だから私の事を放っておけない。 『それだけかな』 彼が私に抱いている感情は、私が彼を思う感情とは違っていた。 『……』 彼が私と同じ目で見ている相手は、他に居た。 ――そう、私ではなかった。 『そっか……』 それに、私には貴女が居る。 『うん。……そうよね』 この部屋には私しか居ない。 でも、少しも寂しくはない。 私は1人ではないのだから。 『……ねえ、ところで授業には行かなくていいの?』 大丈夫、情報操作は得意。 『ちょっとまって! 今の貴女にはそんな事できないでしょ?」 ……そうだった。 『ほらほら急いで! あ~もう! お弁当は後で持ちに来ればいいからしまわなくてい いの。とにかく教室に向かって?』 了解した。 まるで自分の事の様に彼女は指示をしてくれて、そんな彼女に従う事に私は喜びを感 じていた。 ――数ヶ月前、私は生まれてはじめて神に祈った。 大切な人にまた会えますように――と。 その願いは本当に叶った。 この星の神様は働き者。 来年は何を願おう? ――とても楽しみ。 長い様に思えて、過ぎ去ってしまえばあっという間でしかない冬が過ぎ――今は春。 満開を迎えた木々を撫でるように風が舞い込み、薄く色付いた桜の花びらが緩やかに 散っていく。 風情なんて概念とは縁遠い俺ですら、思わず感傷に浸ってしまうのも無理もないだろ。 ハルヒと出会って……もうすぐ一年になるのか。 最初に思い出すのはいつも同じ。高校初日、一生忘れられないであろう自己紹介と共 に俺とハルヒは出会った。 それは本当に偶然だったのか……今となっては何とも言えないな。 ……おや。 ふと気がつくと、物思いに耽っていた俺の顔を遠慮がちに見上げている視線がそこに あった。 俺と視線があうと、彼女は表情を綻ばせ 「……この公園を一緒に歩くのって久しぶりですね」 そう言って微笑む朝比奈さんの顔は、いつになく穏やかで言うまでも無く可愛らしく、 思わず息を飲んで 「おやおや……どきどきな雰囲気だねぇ。お姉さんお邪魔じゃないかな?」 ……息を飲んでしまった俺の顔を、意味ありげで楽しそうに覗き込んでいるのは、言 うまでも無くいつも楽しそうな鶴屋さんだった。 そんなわけないじゃないですか。 「本当? 馬に蹴られちゃったりしない?」 しません。 残念ながらね。 両手に花という言葉を、そのまま具現化した様なこの状況に不満を持つ男がこの世に 居るのだろうか? いや、居ない。 桜並木というオプションがある事を考慮してもそう言い切ってしまえる程に、華やか な振袖――鶴屋さんが着付けしたらしい――に身を包んだ今日の2人はいつにも増して 綺麗だったわけさ。 さて、今日はハルヒ考案による花見なんだそうだ。 進級を控えて、SOS団の更なる結束が~とか何とか言っていたハルヒはいつになく ハイテンションで、その勢いのままに俺は早朝からの場所取りを命じられた訳だ。 当初、何が悲しくて1人寂しく早朝から公園で座っていなければならんのだ? とも 思ったんだが、意外や意外。ようやく日が昇ってきた頃、眠たい目で公園にやってきた 俺が見たのは入口で待っていた二人のお姫様だった。 なるほど、これが早起きはプライスレスって奴か。 「いや~絶好のお花見日和だねぇ~」 そう言って鶴屋さんが見上げた空には雲ひとつ無く、雲ひとつ無いとってつけた様な 晴天が好き放題に広がっていた。 季節外れの台風のせいでここ数日天候は悪かったと思うんだが……まあいいさ、それ が誰のせいかなんて無粋な事は考えない様にしよう。 普段から面倒に巻き込まれてる俺への、神様なりの配慮かもしれないしな。喜ぶべき 事には、素直に喜んでおくのが正しい生き方だ。 謎は謎のまま、あるべき物はあるべきばしょにってな。 ――しかし、彼女はそうは考えなかったらしい。 「ね~キョン君」 はい。 「そろそろ、全部教えてくれてもいいんじゃないかなぁ」 全部……ですか? 「そう! ハルにゃんと長門っちとみくると古泉君と……あの森さんの事、とか。ね」 笑顔の中に「教えてくれるまで諦めないっさ!」とでも言いたげな雰囲気を含ませ、 鶴屋さんは俺を見つめるのだった。 「あ、あの」 慌てる朝比奈さんは俺と鶴屋さんの顔を交互に見るだけで、残念ながら助け舟は来そ うに無い。というかむしろ助けを求めている気配すらある。 ……正直、ここまで助けてもらっておいて何も言わない事に罪悪感を感じない訳じゃ ないさ。鶴屋さんの助けがなければ、ハルヒだって助けられなかっただろうしな。 しかし、だ。 みんなの背景を教えるって事は、そのまま危険な事に巻き込んでしまう事にもなりか ねないんだよなぁ……。 「ね~ね~。後で教えてくれるって言ってたじゃないか~」 それは……はい。 つまらなそうにふくれる鶴屋さんを申し訳無く思って見ていると、 「……そっか、うん。ごめん、もう聞かないよっ」 気のいい先輩の顔に戻った鶴屋さんは寂しそうに笑うのだった。 本当にすみません。 「じゃ~代わりに1個だけ教えて! みくるがあの時言った言葉だけでいいからさ!」 「えええ! あ、あれは駄目です、本当に駄目なんです!」 本気で慌てている朝比奈さん。 「あたしにも秘密なの? 寂しいなぁ~……」 「ごめんなさい。あれだけはどうしても言えないんです」 俺もあれは気になってはいたんだが、朝比奈さん曰く「自分が世界から居なくなって しまう」言葉である以上、一生答えを知りたくない質問でもある。 「おや、二人とも勘違いしてるねぇ」 「え?」 あれ? 違うんですか? 「あたしが聞きたいのはみくるが言わなかった言葉じゃなくて、あの時キョン君に向か って口パクで言った言葉の方なのさ」 ってそっちですか。 「あれって何て言ってたの? あたしからはよく見えなくてさ、キョン君からは見えて たでしょ」 すみません、俺にもよくわかりませんでした。 「そそそそうですよね」 何故かわからないが、俺の返答に朝比奈さんはやけに動揺していた。 本当に何て言ってたんだろう? 「あらら、そうなんだ。ねぇみくる~。あれってキョン君に言ったんだよね?」 「あの……はい、そうです」 素直に頷く朝比奈さんを確認してから、鶴屋さんは笑顔で 「あのさ。「貴方の事がずっと前からす」の後に、みくるは何て言ってたのかな?」 絶対に確信犯だ、この人。 ……でもまあ、これは流石に鶴屋さんの見間違いだよな。朝比奈さんが俺にそんな事 を言うはずがな……あ、あれ? 朝比奈さんの顔色は、桜の花びらの様から一気に赤へと色付き「……ふ~ん。キョン、 あんたずいぶんモテてるみたいね」 確信犯は2人居た。 背後から聞こえてきたその何かを企むような声は、本来この場に居るはずがない…… まあ、こいつがいつどこに居ようが今更驚かねぇけどな。 振り向いた先に居た華やかな髪飾りと振袖に身を包んだハルヒの姿を見て、俺は驚く 前に溜息をついていた。 「すすすす涼宮さん」 デジャブって奴か? 胸元に腕を寄せて震える朝比奈さんを見るのはこれで二度目……いや、結構頻繁に見 てるか。 「あのね、みくるちゃんが誰を好きになってもそれはいいのよ。ま、普通に考えてあり えない事だけど、その相手が奇跡的にそこのバカだとしてもね」 好き放題言ってくれるな。 まあ、俺だって朝比奈さんが俺に密かな恋心を……なんてのはありえないって事くら いわかってるよ。 「でもね、みくるちゃんの事が一番好きなのは間違いなくこのあたしなのよ! さあ、 今からあたしの愛を再確認させてあげるわ!」 おいまてハルヒ、何を馬鹿な事を 「あたしも負けないっさー!」 鶴屋さんまで何を言ってるんですか?! 「えええええ!?」 本気で脅える朝比奈さんに、2人の手が伸びていく。 「あああの! えっとその、涼宮さんはキョン君と古泉君の事が好きなんじゃ……」 俺を気にするようにして朝比奈さんは意見してみたが、 「え? 違うわよ。あたしはみんなの事が好きなの。愛は世界を救うって言うし、好き なのは1人だけとかそんな出し惜しみしちゃいけない物なのよ! だーかーら、みくる ちゃんは何も心配せず、安心してあたしの愛を受け入れてね!」 俺はお前の頭が心配だ。 「そうそう。いや~ハルにゃん良い事言うな~」 駄目だこの2人。 「そ、そんな~!」 相手がハルヒ1人の時ですら一度も逃げ切れた事が無かった以上、鶴屋さんが加わっ た今となっては、朝比奈さんが無事に逃げきれる可能性は、古泉が俺にボードゲームで 勝利するくらいにないだろう。 これは早めに止めた方がよさそうだ。 鶴屋さん、ここは公園で人の目もありますから。 「そっか、キョン君も一緒にいたずらしたいのかい?」 人の話を聞いてください。 「あ、みくるちゃんの振袖胸元が苦しそうね。ちょっと緩めてあげましょう~」 「な、何で腰帯に手をかけるんですか?」 「ほら、花見には付き物でしょ? あ~れ~って回る奴」 どこの世界の花見だ、それは。 っていうかそれは胸元と関係ないだろ。 「日本古来の伝統文化に決まってるじゃない。ねー鶴屋さん」 「そうそう。女の子の夢だよね~」 どんな夢ですか、それ。 「おや、皆さんもうおそろいですね」 未来人の窮地に登場したのは、いつもの笑顔を取り戻した超能力者と、以前より口数 が増えてきた元宇宙人(振袖バージョン)だった。 古泉、いい所に来た。朝比奈さんを助けるのを手伝え。 「了解です」 「あ、古泉君。ちょちょっとこら! 人の楽しみを邪魔しないの!」 「申し訳ありません。僕は彼の命令に逆らえないんですよ。ね?」 同意を求めるな。意味不明な事を口走るな。気色の悪い視線を投げるな。 「わわっ! キョン君そこは駄目さ! あ~んハルにゃんが見てる~!」 鶴屋さん。俺が掴んでるのはどう見ても肘です、変な声を出さないでください。 朝比奈さんに群がる二人を取り押さえようと俺と古泉が取り組む中、何故か長門も手 伝いに来てくれた。 「ふぇ……な、長門さ~ん」 着崩れてしまった振袖姿で妖艶な色気を放つ朝比奈さんは、長門に助けを求めて手を 差し伸ばした――のだが 「以前から、一度やってみたいと思っていた」 長門の手は朝比奈さんの手ではなく、彼女が死守していた腰帯に伸びて――直後 「や、駄目~!」 回転しながら薄着になっていく朝比奈さんの姿を、俺は溜息と共に見守るしかなかっ た訳だ。 「ナイス長門っち!」 一仕事終えた顔の長門と、そんな長門とハイタッチを交わしている鶴屋さんに突っ込 むだけの気力もありゃしない。 「うう……も、もうお嫁に行けません……」 朝比奈さんはうずくまり大粒の涙を流していた。 ……その、なんていうか来て早々災難でしたね。でも最初が悪ければ後はどんどん良 くなるって神社の人が前に言ってましたから、きっと良い事が 「こらみくるちゃん! そこは「あ~れ~」でしょ? はい、もう一回やるわよ!」 追い討ちをかけるなこの馬鹿! 「や、駄目! これ以上は駄目です! お願いです、駄目~!」 おいハルヒよせ! いくらなんでも内掛けはまずい! 「いいところなんだから邪魔しないで!」 邪魔するに決まってるだろうが! 「ちょっと離しなさい! ああもう、いいかげんにしないと本気で怒るわよ?!」 こっちの台詞だ! 「なによ! あんたそんなにみくるちゃんが好きなわけ?」 いきなり何だそれは。 「ああもう! ……キョン、あんたは誰が……その。あれよ! あんたの気持ちを教え なさい!」 俺の気持ちだと? そんなもん……その、あれだ。 「部室でも、結局あんただけは何も言わなかったじゃない」 えっと……ああそう! あれだ! ハルヒ、お前と一緒だよ。 ついさっき聞いたハルヒの言葉を思い出した俺は、誤魔化すつもりでそう言ってしま った。 「え?」 だから、俺の気持ちはお前と一緒だよ。 ほら、さっきお前が言ってただろ? 古泉や俺とかそんなんじゃなく、みんなが好き だ~って……あ、あれ? 何でお前の顔が急に赤くなってるんだ? 「…………」 お、おいハルヒ? 急に顔を赤らめて俯いたハルヒは、そのまま沈黙してしまう。 直後、俺の肩に置かれる古泉の手。 「おやおや、これは御暑いですね」 古泉、お前何を言ってるんだ。 「地球温暖化がこんな所にまで」 『本当、こっちまで熱くなっちゃったわよ』 長門まで? しかも何か違う奴の声まで混じってなかったか? 「いいなぁハルにゃん。みくる~……あたしもみくるにあんな告白されてみたいよう」 「つ、鶴屋さん? ……あの、ここじゃちょっと」 「え! ここじゃなきゃいいの?」 ちょっと鶴屋さん? 告白っていったい何の話ですか! 「さ、僕達は邪魔にならない様にお花見の準備を進めておきましょう」 「賛成~恋する2人のお邪魔はできないってね」 「じゃあ、お料理並べますね」 「手伝う」 頼むから人の話を聞いてくれって! なあ! ――俺の叫びは桜の花びらに紛れ、その声に耳を貸す人は誰一人いなかったとさ。 涼宮ハルヒの愛惜 ~終わり~ 数百メートル先――桜並木の下で騒ぐ彼らの姿を、私は木陰に隠れて見つめていた。 数年もの間、ずっと観察を続けてきた彼等の顔を1人1人順番に眺めてからTPDD の回線を開く。 報告。コードネーム森園生。時空震の反応、閉鎖空間の発生。共に認められず。確認 願う。 ――了解。……規定事項「スペアキー」の完了を確認。これで、この時代における全 ての規定事項は無事、履行されました。森園生、貴女の帰還を承認します―― 了解。 最後の報告を終えてデバイスをオフにした私を、 「お疲れ様でした」 江美里さんの落ち着いた声と 「……」 新川の優しい視線が見つめている。 ありがとう。 この場に相応しいで言葉はわかっても、今は笑うべき所なのかそうでないのかは私に はわからなかった。 これでも少しは社交性を身につけたつもりだったんだが……駄目だ、任務だと思わな いとやはり体は動かない。任務であればできる事なのに、何故なのだろう? 戸惑う私に、 「園生さん。貴女はそのままでいいと思いますよ」 この場に相応しいのであろう笑顔を浮かべて、彼女はそう言ってくれた。 その言葉は私の中にあった硬い何かを優しく包んでくれて――なるほど。これが気遣 いという物なのか。 宇宙人のインターフェースから人との接し方を学んでいる自分に、園生は自然と微笑 んでいた。 江美里さん、貴女の助力には本当に感謝しています。 「いえ、私は園生さんのプランを穏健派に伝えただけ。後は穏健派の意向に従っていた だけですので、どうかお気になさらないでください」 優しい宇宙人はそう言って私の手を取った。 「……また、会う日を楽しみにしていますね」 ええ、私も。 柔らかなその手をそっと握り返し、私は彼女を真似て微笑んでみた――が、彼女は何 故か笑いを堪えている……どうやら及第点には程遠いらしい。 寝ごり惜しそうな彼女から視線を移し、私はもう1人の男へと向き直った。 ……新川。 「はい」 いつもの黒の執事服に身を包んだその男は、やはりいつもの様に私を見守ってくれる ような暖かい視線を向けている。 その視線は私が彼と初めて会った時からずっと続いているのだが、私はその理由を知 らない。 そして新川は、その理由を話そうとしない。 ――ならば、わからないままでいいのだろう。 ただ、私にはお前の視線がとても心地よかった。 だから伝えておかなくてはならない。 ……いままでありがとう。 そっと頭を下げる新川へ、私は学んだばかりの笑顔を贈った。 柔らかな風が通り抜けていき、その風を追うように桜の花びらが舞い降りてくる……。 頃合だな。 私は静かに目を閉じて――声をあげた。 古泉、腕を上げたな。 新川と江美里さんの顔に緊張が走り、同時に同じ方向に振り向く。 私の言葉が辺りに響いて消えた頃、古泉は2人が見ていた木の影から姿を現した。 この2人に気づかれない様にここまで接近できるとは……どうやら、私が教える事は もうない様だ。 ――幼く無知で、勢いだけの実力が伴わなかった少年は、もうここには居ないという 事か。 古泉、そんな顔をするな。 「……」 無言で立つ古泉は、非難するのでも怒っているのでもなく、ただ……悲しそうな顔を していた。 もう気づいているだろうが、私はお前を騙していた。その事について弁明する言葉は ない。殴りたいのであれば殴ってくれても構わない。 そう私が言っても、古泉はただ私を見ているだけ――これなら、殴られた方がまだ気 が楽かもしれないな。 沈黙が苦痛に変わってきた頃になって、ようやく古泉は口を開いた。 「森さん。僕には貴女がわかりません」 ……。 「機関の情報を調べました。涼宮さんを誘拐した事に関して、機関は何も知らされてい ませんでした。怪我をした同志も居ない、世界の再構築が機関の意向だという話も作り 話……貴女は、いったいどんな目的があってあんな事をしたんですか!」 ……。 「古泉さん違うんです、園生さんは貴方が思っている様な……」 無言でいる私に代わって話をしようとする江美里さんを、私は手で制した。 いいんです、伝えなくても。……古泉、私の予想では、お前はこの件に関して深入り しないと思っていた。 「僕もそのつもりでした。ですが、一つ気になった事があるんです」 気になる事? 「ええ、僕自身の事です」 そう言って古泉は自分の頭に手を当てる。 「僕の記憶の中では、貴女と僕は色んな場所へ出かけています。しかし、その記憶はど こかへ行ったという事実だけで、そこで何をしたのかは全く思い出せないんです。最初 は僕の思い違いなんだと思いました。ですが、それだけではどうしても納得出来ないん です。機関の意向であるという貴女の言葉を疑ったのは、それがきっかけでした」 ――まさか、2度も使う事になるとは……私は古泉に何も答えないまま、右手の掌に 小さな金属の塊を精製した。 それはイメージした形へと変化し、冷たく重い金属――小さな銃へと姿を変える。数 秒後、自分に向けられた私の手に銃が握られているのを見て、古泉は体を硬直させた。 銃口の先に古泉の額を定めて、そのまま口を開く。 古泉、いい男になったな。 「え?」 私が次にお前に会う時……その時は全てを話そう。約束する。 「森さん、貴女は――」 さよならだ、古泉。 ――これは私の規定事項。 私はトリガーを引き、掌に収まった小さな銃は弾倉に残っていた最後の弾を音もなく 吐き出す。 弾丸は光となって一瞬で目標を貫き――桜の花びらが舞う中、古泉は倒れた。 新川、すまないが。 「ご心配なく、うまく処理しておきます」 ……頼んだ。 「本当に良かったんですか? 何も伝えなくて」 新川に担がれて古泉もこの場を去り、私は江美里さんと2人っきりになっていた。 いったいどんな理由があるのかわからないが、この宇宙人は私と古泉の関係が気にな っているらしい。 まるで自分の事に様に彼女は辛そうな顔をしている。 伝える必要はありません。古泉とは、また会う事になりますから。 「……ですが、彼の記憶にあった貴女との思い出は消してしまったんでしょう?」 はい。今度は出会った時から全ての記憶を消しました。 「……それでは……それでは貴女の思いは……」 なるほど、彼女の杞憂の正体がやっとわかった。 江美里さん、あいつは違うんです。 「え?」 私が最初に恋した古泉は、あいつではありません。 「え? それっていったい」 続きは……そうですね、また――年後に会った時にお話ししましょう。どこかゆっく り出来る場所でお茶でも飲みながらね。父に美味しいお菓子を焼かせます。 「ま、待って!」 それでは、また。 はじめて見る彼女の戸惑った顔を目に焼け付けながら、私はこの時代に別れを告げた。 涼宮ハルヒの愛惜 ~終わり~ その他の作品
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ぽかぽかした陽気が気持ち良く感じられる春のある日。目の前をひらひら飛んでいる蝶々をボンヤリ眺めながら、おれはいつもの駅前で一人、ハルヒを待っている。二人で映画館に行くためだ。 なぜこんなことになっているか…それを今から説明しよう。 1週間と1日前、いつものように長門が本を読みふけっている横で、朝比奈さんが入れてくださったありがたーいお茶を飲みながら古泉とオセロをやっている時だ。 ハルヒが目をアンドロメダ銀河みたいにキラキラ輝かせて文芸部室-今現在、SOS団の活動場所になっているわけだが-に飛び込んできやがった。 「みんな!揃ってるわね!明日は町内探索に行くわよ!」 そりゃまた急だなお前は… 「なんだか明日は何かが起こりそうな予感がするのよね!だから明日!朝九時に北口駅前に集合ね!遅れないように。最後に遅れて来たら罰金だから!」 ハルヒはそう言い放った。最後の一文はどうやらおれに向かって言っているらしい。おれとしてはありがたくないのだがいつもそうなっているのだから仕方がない。改善しようとも思わないがな。なぜならそれがおれの日常になっていたからだ。その日、それ以外はいつも通りに一日が過ぎた。 で、その次の日。 おれは集合時間の5分前に着いたのだが、そこにはいつものようにおれ以外のSOS団が全員いた。ハルヒはプンスカ怒って 「遅い!あたしが来た時にはもう3人ともいたのよ?!団長を待たせるなんてどういうつもり?罰金!!」 そう言ってハルヒは喫茶店に向かい、おれ達もそれに従った。そうしてこの日の喫茶店がおれの奢りになったところまではいつも通りだ。 ハルヒはいつものようにアイスティーを飲みほすと爪楊枝に色を付け、くじ引きを行なった。結果はこうだ。 おれとハルヒの組 長門と朝比奈さんと古泉の組 なんとまぁ。 まさか宇宙人と未来人と超能力者が一組になるとはな…万国ビックリショーにでも出たらどうだ? なんてことを考えながらふと古泉を見ると何やらいつも以上にニヤニヤしている。…何が言いたいんだお前は その後おれ達は北、長門達は南に分かれることになった。 昨日あれほど楽しそうにしてたんだから行くあてがあるのかと思いきや、そうでもないらしく、おれ達はそこらへんをハルヒの思いつくままにブラついた。 そこで気がついたのだが、その日、ハルヒはいつも以上によく喋る。とても楽しそうなのでおれも釣られて喋ってしまう。ハルヒとこれほど喋ったの久しぶりだな。 しかし、なかなか不思議が見つからず、少々ハルヒの口数が少なくなってきた頃、それは起こった。 バイクが突っ込んできやがった-いわゆるヤンキーというやつだ-そいつがよそ見をしながら走っていたせいか、はたまたハルヒが木の影に入っていたからか、ハルヒがおれの方を向いて歩いていたからかはわからんがそいつはハルヒにまったく気付かず、ハルヒもバイクがこっちに向かっているとは気づいていないようだった。 「危ねぇ!!」 おれは気がつくとハルヒの腕を掴んで力まかせに引っ張っていた。 間一髪だ。もう少し遅れていたら…考えたくもないな。ヤンキーは振り返りもせずどっかに行ってしまった。しかし今はそんなことはどうでも良かった。おれはハルヒが助かったことに安堵を感じていて、ハルヒを抱きしめる形で道にへたり込んでいたことに気づくのに数秒かかったようだ。周りに人がいなかったのは幸いだったな。 俺達は立ち上がり、ハルヒにケガがないことを確かめた後、しばらく黙って歩いていたが、ベンチを見つけたハルヒが 「座りましょ。話したいことがあるから。」 そう言って二人で並んでベンチに座ることにした。 少しの沈黙の後、ハルヒが切り出す。 「あたし、あんたのことただの友達だと思ってた…だけどさっき助けられた時に気づいたわ。それはただの思い込みだったってことにね。ホントはあたし、あんたのことが好きだった…ただ気付かないふりをしてただけ。さっきので自分の気持ちがハッキリしたわ…あたしはキョンのことが好きなんだって。…あんたはどう?」 おれはうなだれた。 …なんてこった。我ながら情けないぜ。ハルヒに言われるまで自分の気持ちに気づけなかったとは…。 いつからだろうか、おれもハルヒが好きになっていた。 しかし付き合いたいという告白は男の方からするものだと思っていたのでおれから言うことにした。 「おれもハルヒが好きだ。お前に言われて初めて気付いたよ。…付き合ってくれ。おれがお前を守ってみせる、絶対に幸せにするから」 ハルヒは本当に嬉しそうな顔で頷いた。 ちょうど昼時になっていたのでおれ達は長門達と合流し、付き合うことになったと公言すると、古泉はわかっていたとでも言いたげなニヤケ顔で 「おめでとうございます」 とだけ言い、 朝比奈さんは少し涙目になりながら 「本当におめでとうございます!やっぱり涼宮さんにはキョン君がお似合いですね」 と言ってくれて、 長門は 「…そう」 とだけ言った。 その間ハルヒはというとおれの横に立っていただけで何も言わなかったが、どこか嬉しそうに見える。 その日はそれで解散することになった。 ところがそれからのハルヒの態度はいつもと変わらず、いつものように何日かが過ぎた。 まあそれでもいいんじゃないかとも思ったがやはり自分から告白した手前、何かしらのアクションを起こさなければと思ったおれは金曜日-つまり昨日だが-明日映画にでも行かないかと誘った。そこでおれはハルヒが昔、付き合ってフッた男について「どいつもこいつも…映画館・遊園地・スポーツ観戦…それしかないわけ?」みたいなことを不満そうに言っていたのを思い出し、失言かと思ったら以外にも 「いいわよ。」 とあっさり承諾してくれた。どうやらおれと一緒ならどこでもいいらしい…いや、そう思いたいね。 そういう訳で今こうしてここにいるわけだが…なぜおれが先に来ているのかって?答は簡単だ。男が待ち合わせに遅刻するなんてカッコ悪いことができるか?少なくともおれはできないね。だからおれは待ち合わせ時間の30分前からここにいるってわけだ。 そうこうしてるうちにハルヒが駅から出てきた。行くところは決まっていたので今日はさっそく映画館に向かうことにした。しかし、彼女と映画館に行く日が来ようとはな…しかもそれがハルヒだなんて1ヶ月前のおれは想像もしなかったよ。 話をしながら少し行くと映画館が見えて来たところで信号にひっかかった。いつもなら恨めしく思うところだが、今日は許してやろう。少し尿意を催したおれは信号が青に変わった瞬間、 「スマン、先にトイレに行ってくる」 と、ハルヒの方を向きながら走り出した。 バンッ 一瞬、何かが起こり、視界が真っ暗になった。 なんだ?何が起きた?う…全身が痛てぇ… 「キョン!キョン!」 その呼び声に再び目を開けたときには目の前にハルヒの泣き顔があり、おれは仰向けに倒れ、全身から血が流れていた。 そう、車にハネられたのだ。 「キョン!大丈夫?今救急車呼んだから!」 しかし、もう死を間近に感じていたおれは無駄であることがわかっていた。 「ハルヒ…すまねぇ…もう…無理そうだ…」 「なんでそんなこと言うの?!あたしを絶対幸せにしてくれるんじゃなかったの?!あたしを置いて死なないでよ!バカキョン!」 ハルヒはそう言いながら大粒の涙を流していた。 息絶える寸前だったおれは震える手でハルヒの手を握り、最後の一言を言うために言葉を絞り出した。 「ハルヒ…」 「な、何?」 「愛し…てる…ぞ…」 そう言っておれは意識を失った。 それからどれくらいたっただろうか…数分だったような気もするし、何年もたったような気もする。 おれは目を覚ました。そこはどうやら病院の一室のベッドの上らしかった。 なんだ?どうなってる?おれは確か車にハネられて死んだはずじゃなかったか?そう、確かにおれは死んだ。その感覚を今でも覚えいる。ならなぜおれは生きている? …わからん。とにかく今確かなことはおれが生きているってことだけだ。 何か少し体が重いと思ったらハルヒがおれの身体に頭を乗せて寝ていた。どうやら泣き寝入りをしたようで涙の跡が一筋、頬に残っている。 「…ハルヒ」 起き上がりながらそう言ってハルヒを起こした。 「…ぇ…うそ…キョン…生きてるの?…あぁ…良かった…あんたが死んだ時は…どうしようかと思ったわ…もう、あたし…」 そう言って泣きつくハルヒをおれは何も言わず抱きしめた。おれの目からも涙が溢れる。ああ…おれはまたハルヒに会えたんだ…生きているんだ…。おれ達はそのことを確かめあうように強く、しかし優しく抱きしめあっていた。 どれくらいの時間がたっただろうか…暫くハルヒとおれはそうしていた。時が永遠に止まればいいのにと強く思った。 それからハルヒはひとしきり泣き、すっかり安心したのかスースー寝息をたててまた寝てしまった。恐らくずっとおれの側にいて泣いていたんだろう…精神的疲労がたまっていたに違いない。おれはつい髪の毛を撫でた。肩にまで届くか届かないかという長さでとてもサラサラだ…よく似合っている。おれはその天使のような寝顔を見ながらこれ以上ない愛おしさを感じていた。おれにとってかけがえのない存在。そんな事を考えながら…。 その時、ハルヒが寝たのを見計らったかのように古泉と朝比奈さんと長門が入ってきた。 朝比奈さんも泣いていて、しゃくりあげながら何か言おうとしたみたいだが結局何も言わなかった。いや、言えなかったのだろう。 「いやあ…しかし驚きましたよ。まさかあなたが生きかえるとはね。」 おい古泉、なんでおれは生きてる?ハルヒがやったのか? 「おそらく。お気づきの通り、ここは機関の病院です。ここの医師達は世界でもトップレベル。その医師達が様々な検査の結果、あなたは確かに死んだと断言したんです。しかし今こうして生きている。これは涼宮さんが起こした奇跡、としか言いようがありませんね。もちろん、涼宮さんの能力でできることを奇跡と呼ぶならですが。」 やはりか。 「そうです、あなたは涼宮さんの力によって生きかえったんです。涼宮さんが最も必要な存在として。しかし、今回は世界が作り変えられることはなかった。本来なら考えられないことです。しかしそうなってくれなくて幸いでした。僕もあなたにまた会うことができたのですから。」 そう言って古泉はいつものスマイル顔になった。 続けて長門に聞いてみた。どのくらいの間おれは死んでいたんだ? 「あなたは7時間32分19秒前に生命活動を停止した。しかし3時間10分25秒前、涼宮ハルヒの環境情報改変能力によって再び生命活動を再開した。」 それだけ言って長門は黙り込んだ。 あれからまだ1日もたっていないのか…大変な1日だなまったく。おれも疲れを感じたので古泉達にそのことを伝え、眠りに着いた。 それから何日か入院した後、おれは何事もなかったかのように退院し、また普段通り学校に通うことになった。 今回は世界が作り変えられることがなかったが、おれが思うに…ハルヒにとって何にも替えられない存在がおれだったとしても、長門や古泉や朝比奈さんや鶴屋さん、その他いろいろを含めてこの世界全てが大切な存在になっているんじゃないだろうか。心の奥底ではそう思っていたのかもしれない…例え無意識であったとしても。 だからおれ達は元のままここにいるんじゃないだろうか。 そしてこれからも以前と同じように生きていくだろう。ただ一つ、おれとハルヒが付き合いながらという点を除いてな。 -Fin-
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昼休み。 「おい、あれお前の連れじゃね?」 「んぐ?」 から揚げを頬張りながら谷口の指差す方を見ると、 放課後まで見たくもないエセスマイルを携えた古泉が突っ立っていた。 視線が合い、あいつの気味悪いウィンクが発動する前に俺は席を立ち、古泉の元へ駆け寄った。 「お食事中申し訳ありません」 そう言いつつ全然すまさそうじゃない感じで長門ばりにごく若干、頭を下げた。謝るくらいなら来んじゃねえ。 「いえ、事は重大なもので」 笑みは変わらず、口調がほんの少しだけ厳かになるのを感じ、俺は肩を竦めた。 「だからってなんで昼休みに・・」 「見たところ涼宮さんはここにはいらっしゃらないようですが、何処へ行かれたのか分かります?」 ハルヒに用? 俺はてっきりまたハルヒが何かわけのわからない現象やらを引き起こしてその相談で古泉の演説を聞かなきゃならんと暗澹としていたのだが、 その回答に俺は少しばかり驚いた。 「いや・・いつも昼休みになるといなくなる。学食とかじゃねえの?」 「そうですか。ありがとうございます」 再び軽やかてか軽薄な口調に戻りそう言うと駆け足でその場を去っていった。 駆け足か、これはちょっとらしくもないぞ。 俺はハルヒに何のようがあるのだろうと思案しかけたが、 谷口が俺の弁当からから揚げを搾取しているのを見るなり思考中断、 谷口に駆け寄りアクロバットをかまして自分の弁当に唾をかけた頃にはどうでもよくなっていた。 だから、当然思いも寄らなかった。 古泉が、ハルヒに愛の告白をしようとするなんてことは。 昼休みも終わりに近づき、 俺は次の授業が行われる化学室へと向かっていた。足取りは重い。 文系志向の俺にとって理系科目は無論苦痛なのだが、 化学はことさら俺の気分を緞帳を下ろすが如くに暗くさせる。 教師と折がが合わないってのが一番の理由だ。端的に言って、うざい。どううざいかっていうとこれが筆舌し難いんだな。 まあ古泉のニヤケながらの理屈ったらしい演説に近いような――― 「あ・・」 そこまで思考して、ようやく俺は先程の古泉とのやりとりを思い出した。 歩きながら再び考察し始めたが、正直、全くわからん。 事は重大とか言っていたが、何故俺ではなくハルヒに用なんだ? ここで俺はかつて野郎とハルヒ神説の話をした時のとある会話を思い出し、ぞっとした。 『ならあいつを捕まえて解剖なりしたらどうなんだ』 『そうゆう強行手段を主張する過激派達も機関に存在します』 まさか―――― いやそれはないだろう、いやでも、と葛藤し始めた俺に、 「やっ少年!どういたんだいっ?こんな暗い顔してっ!悩みがあるなら相談に乗るにょろよっ!」 「うふ、キョン君こんにちわ」 お二人の天使が目の前に降臨なされた。 「こんにちわ」 軽く頭を下げ、二人の穏やかな、 そして朗らかな天使の笑みを受け俺は先程の葛藤が嘘みたいに晴れ晴れとした気分になり、 そういえば朝比奈さんの制服姿を見るのはなんだか久しぶりだなあ、とか、 いつもは部室でウェイトレスやらメイドの格好しているなあ、とか、 またバニーガールやってくれないかなあ、とか、 『古泉君をあまり信用しないで・・』 ―――妄想が無意識に回想へとシフトされた。 瞬時に、先程の葛藤で頭一杯になった。 かつて朝比奈さんが言ったこの言葉。 これはつまるところ・・・・・・。 奴はあくまで主流派に属していたはずだ、あの話を聞く限りでは。 が、最近は少数派になりつつあるとも漏らしていた。 そして朝比奈さんの、信じるな、という若干抑えられた忠告。 「?どしたの?」 不意に視界に鶴屋さんの???な顔が映り、はっとして、 「ああいえ、次の授業、化学なんですけど、俺化学嫌いなんですよ」 と言って、 いかんいかん、確かにいけ好かない野郎だが疑心暗鬼になってはダメだ、 と頭を振り払うように心の中で呟いた。 「うふ。嫌いでも頑張って勉強しなきゃダメですよ?」 「そうだよっ!そんなんじゃいつまでたっても古泉君に勝てないよっ!」 お二人の激励を受け取り、 再度会釈し俺は先程とはうって変わって足にフットパーツを装着したかの如くの足取りで化学室を目指した。 しかしまたしても俺は5限目が始まってから再び気持ちを入水させることとなる。 ハルヒは5限目が終わるまで、化学室に姿を現さなかった。 5限目が終わり、俺は速攻で1年9組の教室に行った。 古泉、お前何の目的でハルヒを探してたんだ? 事と次第によっちゃその憎たらしいまでに整った顔を谷口の垢を煎じて飲ますくらいのアホ面にしてやるぜ。 「古泉!!」 9組に入るなり俺は柄にもなく大声で叫んだ。 が、ぱっと見渡したところ古泉の姿はどこにもなく、 なんだこいつと言いたげな教室内の連中の視線を受けながら、 俺はいよいよこれはマズいんじゃないかと内心汗諾々となっていた。 「おい!」 「きゃっ!」 俺は不意に教室を出て行こうとした女生徒の肩を掴んだ。 デリカシーのない、なんて自分ツッコミする余裕はなかった。 「古泉はどこだ!?」 「えっ?あ・・知らない・・」 女生徒はおびえたような目付きで俺を見、たどたどしく答えた。 俺はそれを聞いて、ちっと他人から見れば演技掛かっているような舌打ちをかますと、 猛ダッシュで教室を出て、再度自分の教室へと向かった。 なんとなく、というかほぼ確実にそこにハルヒも古泉もいない気がしたが、とにかく行かずにはいられなかった。 「やっぱりいないか・・・」 間も無く帰りのHRの始まる5組の教室内。 俺の席の後ろには誰も座っておらず、ばっと教室を見渡してもハルヒ、そして当然といえば当然、 古泉の姿は見受けられなかった。 「よお、お前さっきから何かおかしいぞ」 「ほんとだよ。授業中もずっとそわそわしてたし。これじゃゴールデンウィークも補習だね」 悩める俺に話しかけてくる谷口に国木田。 ええい黙れ今それどころじゃないハルヒが古泉に拉致されて解剖されて世界が破滅・・・・。 あ。 「はあ?お前とうとうイカれちまったか?」 ゴールデンウィーク。 そうか。それがあったか。 「まああの教師を嫌うのも分からなくはないけどさあ」 「いや、すまん。少しばかり気が触れてた」 氷解した。 バレンタインデーといいこれといい全く何だって俺は重要な行事を忘れるんだろうか。 あと1週間でゴールデンウィークだ。 つまり、ハルヒはまた合宿か何かでもする気なんだろう。 それで古泉にまた別荘やらエセ推理ゲームやらの計画を持ちかけているんだ、そうに違いない。 はぁ、と安堵の溜息をつくと同時に、 俺はさっきから一体何を一人でテンパっていたのだろうと段々恥ずかしくなってきた。 そういえばさっきの九組女子、いきなり肩を掴んで問い詰めたりしてすまん。許せ。 全くデリカシーのない。 「あ、そういえばさっき朝比奈さんに会ってね、 化学教えてあげるからHR終わったら私の教室来てって伝えておいてなんてこと言ってたよ」 馬鹿野郎、何故それを早く言わない。 俺はまだ何か言いたげな国木田とそして谷口を無視し、HRも忘れて朝比奈さんのいる教室へと猛ダッシュで向かった。 あっという間に朝比奈さんの在籍する教室まで辿り着き、 朝比奈さんとのマンツーマンレッスンを脳裏に浮かべながら、 逸る気持ちを抑えて、 「失礼しまーす」 「お久しぶりですね、キョン君。貴方にとっては去年の12月以来かしら」 ―――あーなんというか。 またですか。 そこには家庭教師ルックに身を包んだ愛くるしい我がSOS団のマスコット朝比奈みくるさんではなく、 という俺の妄想はいいとして、いや朝比奈さんには違いないが、 朝比奈さん(大)が柔和な笑みを浮かべて教壇の上に立っていた。 ・・・まあ、いやこれは朝比奈さん(小)は責められない。あの人にとっては規定事項、 おそらくは上司のこの人の命を忠実に実行しているだけだろうから。 しかしそうは言っても今度部室で是非ご指導願おう、化学。 それはそうと。 何の用かは知らんが、 俺は2月のあのよくわからんタイムトラベルの事で訊きたいことがまだあったことを思い出し、 いやその前に篭絡云々は置いといてチョコありがとうございますと言おうとして、 「今回は、私に対する貴方の質問の回答全てが禁則事項に該当するので、そのつもりで」 いきなり釘を刺された。これには唖然としたね。 そういえば2月のあの日、 そろそろ未来への重大な分岐点がやってきますとかなんとか言っていたけど、もしかしてその事か? 俺は幾分か身を強張らせ、朝比奈さん(大)の言葉を待った。 しかし、発せられた言葉はあまりに意味のよく分からないものだった。 「自分の気持ちに正直に。自分の気持ちを偽らないで」 はい? すいません朝比奈さん、全く意味が分かりません。 「以上です」 いやいやちょっと待って下さい、 たったそれだけの文系版長門みたいな意味不明の指令だけで未来を俺に委ねるだなんて言うおつもりですか? 禁則事項です、ともう前持って釘を刺していたからかのか朝比奈さん(大)は何も答えなかったが、 代わりにふとその表情に淋しげというかなんかそんなアンニュイな雰囲気を帯びた微妙な笑みを浮かべると、 「それじゃ、またね」と儚げに言い、唖然とする俺の横をすり抜けて廊下へと出て行った。 「ちょっと待って――」 はっとして俺が再び廊下に出たときには、もう朝比奈さん(大)の姿は見えなかった。 朝比奈さん(大)の言葉の意味を吟味しながら、俺は部室へと向かっていた。 自分の気持ちに正直に。自分の気持ちを偽らないで。 ―――全く分からん。 そりゃそうだ。 俺は文系志望とはいったがそれは国語だとかが得意だからというわけではなく、 ことさら理系が苦手だったからという消極的理由故で、 国語の点を競うライバルは谷口と言えばお分かり頂けるだろう。 こうなったら。 どうせ古泉の野郎はゴールデンウィークのことで苦しんでいやがるだろうし、 朝比奈さん(小)は朝比奈さんで先程の件を謝っては何も知らないです禁則ですとうろたえるだけだろう。 もう長門だけが頼りだ。 しかし感情があるのかないのか分からない有機アンドロイドにこんなメッセージが伝わるのだろうか。 こんなにも長門が頼りになさそうに思えたのは初めてだ。全く。 一応ノックをし、誰の声もしないのでドアを開ける。 「・・・・・・」 いつものように自分の席で俺に目を掛けるまでもなく黙々と本を読んでいる長門を見て、 ますますこいつで大丈夫か?と思ってしまったが、 とにかく今は長門しかいないのだからしょうがない。 俺は、「実はさっき」と言いながら長門に近づき、 「今日午後1時12分、現時空間から涼宮ハルヒと古泉一樹の存在が消失した」 朝比奈さん(大)といいこいつといい、 何だっていきなりそういう重大発言を何の前触れもなくかますんだ。 「どういうことだ!?」 内心の不満はそこそこ、俺は先程の女生徒よろしく反射的に長門の肩を掴み、 またまた柄にもなく大声を張り上げてしまった。 「・・・・・・」 相変わらずの3点リーダー返しに、俺は明らかな苛立ちを覚えていた。 おいいい加減にしろよ長門、さっさと答えろ、今あいつらはどこで何をしている? 二人で一体何をしているんだ!? 「落ち着いて」 「・・・・・」 今度は俺が3点リーダーを返す番だった。 いや、これは俺が体験してきた様々な超常体験に匹敵する驚愕だった。 「落ち着いて」だなんて相手を気遣う(と捉えよう)ような発言もそうだが、 何よりその声量に、だ。 初めて聞いた。長門のハルヒにも劣らぬデカイ声。 しかしデカイ声ではあったが、声色は普段と変わらない無機質な物だった。 「落ち着いて」 再度、今度は普段の声量でそう言い、俺は慌てて長門の肩から手を離した。 「その、なんだ、すまない」 「いい」 言いながら、長門が団長席を指差した。 「―――――――――」 何か、いた。 その存在を感知すると同時に、 俺はそいつを初めて見た時と同じ、えも言われぬ悪寒のようなものが背筋に走った。 何でここにいる!?いやていうか何故俺はそいつがいたことに気付かない!? 「――――周防―――九曜――」 知ってる。いや正直名前は微妙に忘れていたが、とにかく。 俺は冷静を装いつつ、 「長門、これはどういうことだ?」 「そのイントルーダーは今回の涼宮ハルヒ古泉一樹両名の時空間異動に関与していない」 そう言うと、まるで自分の役割を終えたかのように長門は再び視線を本に戻して、 俺らがここに存在しないかのように読み始めた。 おいおいまだ俺には訊きたい事が山ほどある。 なんでこの天ナントカ存在とかいう宇宙人と一緒にいるんだ。敵ではなかったのか? そして俺の受け取った朝比奈さん(大)のメッセージの意味だって――― 「――――着いて・・・・来て―――――」 結局あれから何を言っても長門は口を開かなかった。 こうなってしまっては、もうこの現状を打破する手立ては一つだけ。 このナントカ宇宙存在というか幽霊的存在と言った方が差し支えのないアンドロイドに着いて行くしかないということだ。 しかし。 長門の言うとおりこいつがハルヒ古泉の消失に関与していないとしたら。 そしてこれが朝比奈さん(大)の言う、未来への大きな分岐点だとするのであれば。 ―――古泉の偽悪的な笑みが一瞬脳裏に浮かび、すぐに消えた。 或いは、疑心に満ちた先程の考察を再度思い起こさなければならないかもしれない。 そんなことを考えながら、 いつの間にか到着したらしい。 「ここは・・・」 SOS団課外活動での集合場所となっている、いつもの喫茶店だ。 ここに一体何があるんだと思案し、 ふと横目を見たら周防九曜とかいうアンドイドが人込みに紛れて見えなくなる直前だった。 もう何だかとそのアンドロイドについて思案し始めて、 「やあ、キョン。3日振りだね」 ―――佐々木がふんわりとした笑みを浮かべながらやってきた。 思わずどきっとした。 急な思わぬ人物が現れたからではなく、いや正直それも少しはあるが、 「・・・・・・よう」 「どうしたんだい?怪訝そうな顔をして。僕の顔に何か付いているのかい?」 ・・・・・・とにかく。 俺は立ち話もなんだし、と喫茶店の中へと入った。 それどころではないのだが、 ここまで誘導してきたあの宇宙存在、そしてそいつに着いて行けと言った長門。 佐々木がキーパーソンであることは間違いないのだろう。 「話は聞いているよ。橘京子さんからね」 「橘京子って・・・確か」 古泉と敵対する機関の重要人物だ。朝比奈さん誘拐の件は今は目を瞑ろう。 俺は思い出すなり、早口で言った。 「何て言っていた?涼宮ハルヒを捕まえて解剖するとかそんな事言ってなかったか?」 「いや?僕が聞いたのは涼宮さんとあと古泉、って言ってたっけ、あのハンサムな彼。が閉鎖空間に取り込まれたってことだけだが?」 佐々木の口から古泉がハンサムだなんて出て軽くイラっと来たが、 今はそんなことどうでもいい。 閉鎖空間。 畏れていた仮説が真実である可能性が高まった。 あそこに入れるのは古泉――機関の連中に、そして。 そいつらの手を握った人間だけだ。 「そうか・・・・・・」 焦燥感が増して行く。 どうすればいい? 仮に閉鎖空間に取り込まれているのが事実とするならば、 どうしたって行くのは不可能だ。 機関の他の人達――新川さんや森さん、多丸兄弟――は古泉の仲間だった。 あいつだけがもし造反を企てていたとなれば或いは彼らの協力を得ることも可能だがしかし、 常に冷静沈着ニヤケスマイルの奴の事だ、俺の行動を見通してそこらへんの連絡遮断は周到になされているかもしれない。 無論、機関の連中全員が古泉と同じ思想に染まっていれば、それこそもうアウトだ。 「ところで」 佐々木の声でふと我に帰る。 「少しばかり話が脱線するのだが」 できればやめて欲しい。今はそれどころでは、 「―――キョンは、私の事、どう思っているの?」 あー・・・・・・なんというか。 そういえば先日の部活勧誘の時に朝比奈さんの着ていたチャナドレス、 やばいくらい似合ってたな。 あれ、朝比奈さんだったっけ?着てたの。 「キョン」 はいっ。 いけないいけない、 あまりの突飛な佐々木のペルソナチェンジについ現実逃避してしまった。 なんだって?私のことどう思っているかだって? いや待てその前に何故俺にそんな女みたいな言葉で話しかける?いや佐々木は女だが。 お前は女子と喋る時にしかそんな喋り方しないはずだ。 全くわけがわからない。 「ふふ・・・鈍感ね。キョン」 言った。 「私、キョンのことが好きなの。女の子として、ね」 あーそうだ。 思い出した確か部活勧誘の時チャイナドレス着ていたのは――― いやいや今はとにかく。 佐々木。 「すまん」 即答した。 「あーなんというか、佐々木はとても魅力的な女性だと思う」 ああ、今日。初めて気付いた。 会った時のあの笑顔。 だけどな。 「俺は、お前とはその、なんだ、友達としてこれからも付き合っていきたいと思う。ダメか?」 これが正直な気持ちだ。 なんだか急にいたたまれなくなって、頼んだカフェラテをがぶがぶと飲んだ。 そういえば恋愛は病気の一種。そんなこと言ってたっけ。 佐々木と、あと、 「いや、こちらこそすまなかった。急に変な事を言ってしまって」 いきなり元の口調に戻ったかと思うと、くつくつと喉を鳴らし、 「すまないが、脱線する前の話の続きは外で話さないか」 ここは僕が払うよ、と佐々木は明細を手に取った。 喫茶店から出た俺と佐々木は駅前広場の一角にあるベンチに腰を下ろしていた。 脱線する前の話といっても、後は周防九曜なる出来損ないの宇宙人がハルヒ古泉両名の消失を感じ取ったこと、 今日午後4時半に今俺たちのいる場所に誰かが来るということをあのいけすかない自称藤原の未来人野郎が言っていた、ということだけだった。 前者はどうでもいいとして、後者。 これはどういうことだ。 何故朝比奈さん(大)はそのことを言ってくれなかったのか。 ひょっしたらあの藤原とかいう未来人野郎は朝比奈さん(大)と敵対している宇宙人で、 朝比奈さん(大)の望まない未来―――大きな分岐点の、 あってはならない未来への軌道修正に加担してしまっているのではないか? いや、でも朝比奈さん(小)はあの野郎から散々毒吐かれたのにも関わらず 「あんまり悪い人じゃなさそう」とも言っていた。 一体どうすればいいのかと思案している内に、 「どうやら来たようだ」 佐々木の声にはっとして、公園中央、噴水の真ん中にある時計台を見た。 4時半になっていた。そして。 「これはこれは。部活をさぼってデートですか。お羨ましい」 会いたかったぜ。とってもな。 「どうゆうことか説明してもらおうか。古泉」 如才ない笑みを浮かべて、古泉は肩をすくめた。 「誠に申し訳ありませんが、佐々木さんは席を外してもらえないでしょうか?」 「ああ。そうさせてもらうよ。ではキョン、古泉君。またいずれ」 そう言って、佐々木は立ち上がり、 俺と古泉に軽く会釈をするとゆっくりと駅の方へ向かっていった。 去って行く際、「ふふ・・・。涼宮さんには妬いちゃうな」なんて言っていた気がするが、気がしただけだろう。 「ここで話すのもなんですから」 「喫茶店には行ったばっかだ」 「でしょうね。ですから・・・・・・」 古泉が握手を求めるように、俺の前に手を出してきた。 その手を見て、俺はほんの一瞬、躊躇した。 いや、ここから閉鎖空間に行くのだろうということくらいは分かる。 が、何だか世界の命運を再び俺に委ねられそうな気がしたからだ。 しかし。 今更だな、そんな事は。 「早くしろ」 「目を瞑ってください」 意を決して古泉の手を握ると、俺は目を瞑った。
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ここは文芸部部室こと我らがSOS団の溜まり場だ 朝比奈さんは今日もあられもない姿で奉仕活動に励み、長門は窓際の特等席で人を殺せそうな厚さのハードカバーを読んでいる。 俺はというと古泉と最近お気に入りのMTGを楽しんでいた――ちなみに俺のデッキは緑単の煙突主軸のコントロール、古泉は青単のリシャーダの海賊を主軸にしたコントロールだ――ここ最近は特に目立った動きもなく静かな毎日を送っていた。 ……少なくとも表面上は。だがな。 何故こんな言い回しをするかって?正直に言おう。オレ達は疲れていたんだ。ハルヒの我が侭に振り回される毎日に。 そりゃ最初のうちは楽しかったさ。宇宙人、未来人、超能力者と一緒になって事件を解決する。そんな夢物語のような日常になんだかんだ言いながらも俺は胸を踊らせたりもした。 だって、そうだろ?宇宙人と友達になれるだけでもすごいのに未来人や超能力者までもが現実に目の前に現れて俺を非現実な世界に連れていってくれるのだ。まさに子供の頃の夢を一辺に叶えたようなものだ。 これをつまらないと言う奴はよほど覚めた奴か本当の意味での大人くらいなものだろう。 そして俺は本当の意味での大人ではなかった。だからなんだかんだと文句を言いながらも心の底から楽しむことができたのだ。 では何故冒頭で否定的とも取れる意見述べたか?理由は単純、ハルヒの我が侭がオレ達のキャパシティを大きく上回ったことにある。 例えば閉鎖空間。SOS団を結成してからというものその発生回数は減ったもののその規模が通常のそれより遥かに大きくなったのだそうだ。 しかもその原因のほとんどが俺にあるというから責任を感じずにはいられないね。 そして俺に最も精神的苦痛を負わせた事件がある。それはこんな内容だった。 それは些細なことで始まったケンカだった。あの時は俺が折れるべきだったのだ。 悪いのはハルヒだからハルヒが謝るべき。 なんてつまらない意地を張らずにハルヒに土下座をして許しを請うべきだった。 しかしあの時の俺は強気だったしバカだった。 あろうことか俺はハルヒにお前が長門や朝比奈さんを少しは見習って女らしさというもをうんたらかんたらと説教を始めてしまった。 それがいけなかった。 前々から俺と長門の関係を怪しんでいたハルヒは激昂し、「なんでそこで有希が出てくるのよ!!」と怒鳴ると怒って帰ってしまったのである。 朝比奈さんはおろおろと怯え、長門は無表情だがどこか責めるような目線を送ってきた。 そしてこの件について一番の被害者になるであろう古泉はいつもの0円スマイルではなくまっこと珍しいことに真顔だった。 真顔の古泉が怖くて仕方なかった俺は古泉に平謝りしその日は解散となった。 明日ハルヒに謝ろう。そうすればまたいつも通りのSOS団が帰ってくるさ。俺はそんなことを考えていた。 だから翌日昼休みに消耗しきった古泉に呼び出されたことに少なからずも俺は動揺していた。古泉のあんな顔を見るのは始めてだった 「昨夜閉鎖空間が発生しました」 「そうだろうなあ…いや本当にお前には迷惑をかけた。すまんこの通りだ許しくれ!」 古泉は気にしてないと言わんばかりに微笑し淡々と話しを続けた。 「僕よりも涼宮さんに謝ってあげてください。なんせ昨夜の閉鎖空間の規模は今までの比ではなく我々《機関》だけでは対処できずに長門さんの勢力に協力してもらいやっとのことで鎮めることができたのですから」 古泉は淡々と話す――本当にすまん 「そして我々《機関》の中から始めての犠牲者もでました。あなたもご存知の新川さんが森さんをかばいが殉職しました。その森さんも背骨を折られ車椅子生活を余儀なくされました」 俺は絶句した。そりゃ人はいつか死ぬのだ。その事実は受け止めなければならない。 しかしこんなかたちで知人の不幸を知らされるとは夢にも思っていなかったからである。 真夏だというのに小刻みに震え、冗談だよなと言う俺を見て古泉は首を左右に振り否定。 また微笑し淡々と話し始める――なんでそんなにあっけらかんとしているんだよ…いっそのこと罵利雑言を浴びせ思いっきり殴ってくれ… 「僕は、僕達は別に貴方を責めているわけではありません。貴方はただ巻き込まれただけの一般人ですからね。ですが貴方の軽率な行動が簡単に僕達の命を刈り取ってしまう…この事実を忘れないでください。 では、後ほど」 そういって古泉は教室に戻っていった。 俺はというと食堂で昼食をとっていたハルヒに詰め寄り恥じも外聞も捨て泣きながら土下座した。 この時ばかりは周りの視線が気にならなかった。それくらい俺は焦っていたんだ。 とまあ、こんなことがありしばらく俺は古泉よろしくハルヒのイエスマンに成り下がっていたのだがこれにもちょっとしたエピソードがある。 なんでもかんでもはいはい肯定する俺にハルヒが不満を持ったのである。本当に難儀なあ、奴だこいつは… 古泉曰く俺は否定的立場を取りつつも最後にはハルヒを受け入れる性格でないといけないらしい。つまり新川事変(朝比奈さん命名)以前の俺だな。 新川事変以来ハルヒにビビっていた俺には無茶な注文だったがまた下手に刺激して閉鎖空間を発生されても困るので努めて俺は昔の俺を演じることにした。 おかげで自分を欺く術に異様にたけてしまった。全く嬉しくないネガティブな特技である。 ついでなので俺の肉体に最も苦痛を与えたエピソードもお話ししよう。 その日はいつものように文芸部部室で暇を持て余していた俺は古泉指導のもと演技力に磨きをかけていた。 そこに無遠慮なまでにバッスィィィィィン!!とドアを蹴破り現れたのは我らが団長涼宮ハルヒその人である。 ハルヒは何か悪巧みを思いついた時に見せる向日葵の様な笑顔――俺にはラフレシアの様な笑顔に見えたのは秘密だ――で開口一番 「アメフト大会に出るわよ!」 と、宣った。せめてビーチフットにしていただきたかったぜ。 大会はいつなんだ?という問いに満面の笑みで 「明後日よ!!」 と答えるハルヒ。まったくこいつは…… 「無理だ。アメフトのルールは野球とは違って複雑だぜ?」最初は否定的立場にいながら―― 「大丈夫よ!図書室でルールブック借りてきたしいざとなったらあんたの友達の中川くんに助っ人になってもらえばいいわ!!」 俺はハルヒの持ってきたルールブックにいちべつし、軽いため息を吐くと 「“中河”だ。わかった…中河には俺から連絡しておくさ」 ――最終的にハルヒの我が侭を受け入れる。どうだ?完璧な演技だろ?アハハハハっ、よし、今日も古泉にレキソタンわけてもらおう。 以外と効くんだ。アレ。 中河にアポを取り、快く承諾してくれた中河に感謝しつつ決戦当日である。 ちなみにハルヒが借りてきたルールブックとはアイシールド●1である。 いっそ事故かなんかで死んでくんないかなあ、あいつ。 試合内容は散々たるものだった。 相手チームが原因不明の腹痛を訴え棄権したり交通事故で棄権したり実家が燃えて人数が足りないチームと戦い、とうとう決勝戦である。 彼らには悪いがこちとら世界の命運がかかっている。多少の犠牲はつきものと割り切って試合に挑もと思う。 ここでとりあえず我がチームの選手とポジションを紹介する。 まずはラインの谷口、国木田、コンピ研部長、ランの俺とハルヒ、クォーターバックの長門、なんでも屋の古泉、その他雑用の鶴屋さん、朝比奈さんに妹 そしてリードバッグ(ボール持った奴を守るポジションらしい)の経験者中河だ。 これで優勝を狙ってるんだから正気の沙汰じゃない。本当に志しなかばで散っていった方々のご冥福を祈る。 いい加減まともに試合が出来ていないことにハルヒがイライラしてきたのでこの試合は小細工無しの真っ向勝負だ。 オレ達は経験者中河の指示にしたがい順調に点差を広げられていった。 ちなみに中河の提出した作戦は「いのちをだいじに」だ。 さすがの中河もまさか女子供と混じってアメフトをするとは夢にも思わなかったのであろう。 いろんな意味でアップアップだ。 そんな時に限って古泉の携帯が鳴り、長門は空を睨み、朝比奈さんは耳を澄ましてやがる。あぁ、忌々しい…